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在日へのメッセージ

小田川興(前朝日新聞編集委員)



W杯を「共同体」の礎に

 日韓共催のサッカーW杯は、歴史の克服と未来の可能性を示唆する祭典だと肌で感じている。

 開会式。ソウル競技場で、愛国歌についで君が代が吹奏された時、感慨が走った。

 「日韓はここまで来たか」。日韓をめぐる自分の取材体験もそうだが、何よりも先輩記者の『幻の君が代』証言を思い出していた。

 1965年2月、椎名悦三郎外相(当時)は日韓基本条約仮調印のため、金浦空港に降り立った。日本からの同行記者たちは「予定稿」で「君が代吹奏」と書いた。両政府で合意されていたからだ。だが、韓国側で「時期尚早」論が出て取りやめに…。あれから37年。日韓関係は歴史教科書問題や靖国参拝問題などに見るとおり、「歴史の解決」にはなお遠い。しかし、一日約1万人が往来し、市民レベルの交流が広がるなか、一つの区切りをつける時期が来た。国家関係重視の「65年体制」に。W杯会場の君が代はその答えでもある。

 冷戦下、米国主導で結んだ条約による日韓「65年体制」こそが、侵略の責任と償いをあいまいにしてきた。背景にある米国の戦略は日本敗戦・朝鮮解放後、占領・軍政へと続く時期に始まった。日本国内の保守派は新憲法の「国民」概念から在日外国人を排除した。だから、歴史問題を克服するには、北東アジアの「45年体制の矛盾」を清算する必要がある。

 「理念と宗教を超えて一つに」(金大中大統領)なるW杯は、スポーツを媒体にした市民ネットワークの世界でもある。それは日韓中「共同体」の礎石になりうる。北朝鮮が仲間入りできるかどうか。それが「2002体制」のカギだ。

(2002.06.05 民団新聞)



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