| 「家族シネマ」のロケ風景 |
■一足早く年内に韓国で公開
【奈良】日本で映画化の進められていた柳美里さんの97年芥川賞受賞作「家族シネマ」が8日、クランクアップした。朴哲洙監督(50)をはじめとするスタッフは全員韓国から来日、在日韓国人や日本人の俳優を使い、日本語の台詞で撮影してきた。日本文化の流入が規制されている現状では、異例ともいえる韓国映画だ。来年2月のベルリン映画祭に出品される。
■ベルリン映画祭にも出品
韓国側から来日した出演者は、母親の恋人役を演じる朴永禄だけ。父親役は山本周五郎賞を受賞した梁石日さん、母親役に伊佐山ひろ子さん、妹役に柳愛里さん、監督役は新宿梁山泊の金守珍さんが扮している。
セリフは日本語、ロケ現場も日本。こうした映画制作は韓国映画界では初めての試み。韓国映画振興公社の融資申請作品で一位を獲得した、100%韓国資本の映画だ。
年内に韓国での上映を目指しているが、万が一認められなかったとしても、日本をはじめとする海外での上映を考えているという。そのためにもベルリン映画祭でどのような評価がなされるかが、海外市場に進出していくうえでの試金石となりそうだ。
朴監督をはじめとするスタッフ40人は、来日するやいなや8月5日から奈良県御所市内で合宿態勢を敷いて撮影を続けてきた。金剛山を尾根にする地形は韓国の慶州に似ていることから金監督が気に入り、ロケ地に選んだ。
撮影現場では韓国語と日本語が行き交う。映画監督役の金守珍さんは車両部や通訳まで兼ねており、制作現場を下支えしていた。梁石日さんを説得して初めての映画出演に引っ張り出したのも金守珍さんだった。「お父さんってな―に。家族の中心にアボジがいて、その存在はなにかを問い掛け、家族を考えていくきっかけに」と二人は話している。
| 朴監督 |
■家族テーマの映画が念願
朴哲洙監督の話
家族をテーマとする映画づくりは朴監督の念願だったという。なかでも「家族シネマ」は、朴監督の考える「家族」の思想にぴったり合致していたことから映画化を思い立った。韓国では家族を縛るが、小説では一人ひとりを認めていたからだ。
映画化権獲得をめぐっては日本の制作会社との争いとなったが、柳美里さんが朴監督の作品に好感をもっていたことが決め手となり、朴監督自ら設立した映画制作会社である「朴哲洙FILM」が原作権を手に入れた。
しかし、昨年の制作決定からウォンが大幅に目減りしてしまい、クランクインが遅れたといういきさつがある。
朴監督は「映画は家族についての在日同胞の問題提言としてとらえてもらいたい。在日韓国人と日本の俳優の共演で文化交流の懸け橋にもなれる」と話している。
朴監督は76年に監督デビュー。愛に屈折した女性の孤独を描いた「301・302」は韓国初の世界配給映画となっている。「家族シネマ」の制作は、韓国で日本語や日本の俳優起用が禁止されている状況をなんとか打破したいとの願いも込められている。
(1998.9.9 民団新聞)
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