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北送同胞に救いの手を



 北送事業によって「帰国」した在日同胞の約半数は、その所在すら確認されていないという。通信網の発達によって各国間の距離がますます縮まっているこの時代に、隣りの国に帰った肉親の所在さえ知れないという事実に今さらながら驚かされる。

 一方、北韓では構造的な農業不振による食糧難による餓死者が百万人とも二百万人に上るとも言われている。こちらの面でも北送同胞の安否が気遣われる。

 総連が組織の総力を挙げて推進する一方、総連の呼びかけに応じて日本側も政府・民間を問わず推し進めた北送事業からかれこれ三十年近くが経とうとしている。

 「地上の楽園」とさかんに喧伝された北韓も、今や「腹をすかせた地上の楽園」と揶揄されるほどの危機的状況に陥っている

。  食糧難もさることながら、北送同胞にとって怖いのはひとつ間違えば政治犯収容所という名の非人道的な施設が大きな口を開けて待っていることのほうだろう。


北韓脱出同胞が増加

 十万人近くに及ぶ「帰国同胞」のうち、在日家族が連絡を取れたり居場所が分かっているのはわずか半数ほどと言われ、残りは消息すら知られていないのが実情だ。

 かなり多くの「帰国同胞」が政治犯収容所に入れられているのは周知の事実だ。同じ苦難の歴史を歩んだ在日同胞として暗たんたる思いに捕らわれる。

 食糧難に喘ぐ北韓を密かに脱出し、中国、ロシアなどの隣国に逃げ込む北韓住民が増えている。日本市民団体によると、北送同胞の中国への脱出者十七人をすでに確認しているという。

 ほとんどは朝鮮族同胞にかくまわれているが、隠れ家が発覚すれば官憲の手によって北韓に引き渡され、間違いなく収容所行きとなり、いったん収容所に入れば彼らの場合、生きて出られる保障はない。

 中国当局の捜査も厳重を極めているというが、それでも祖国を捨てざるをえない状況とその心情をわれわれも思いやらざるをえない。「祖国の発展に尽くす」と胸に熱い希望を抱きながら「帰国」した人たちが、今や命がけでその国を捨てようとしているのである。


救援の声をあげよう

 同じ民族の血を引く同胞として、またもとは同じく日本で過酷な差別を受けた者として、この窮状を聞くにつけ忍びなく心痛む思いだ。

 北送事業の推進者であり、日本での「北韓大使館」を自認する総連こそが責任を持って北韓当局に実情を訴え、解決への糸口を探るべきなのは言うまでもない。だが、今の総連指導部にはそのことを言い出す気概もなければ勇気もないようだ。

 残念ながら、北韓、金正日に盲従するだけの総連指導部に対し、在日同胞の声を北韓に届けてほしいと願う方が無理なのかも知れない。

 その一方で、北送同胞問題に真正面から取り組んでいる日本市民団体が存在する。帰国者の生命と人権を守ろうとする団体、北韓からの脱出者を救援しようとする団体がある。手弁当でわが同胞を支援しているその姿勢に頭の下がる思いだ。

 北送同胞の家族・親戚は民団、総連の所属を問わず数多くいる。北送同胞に関心を持つ者に今できることは、これら市民団体の活動を側面から支援していくことではなかろうか。

 一人ひとりの力を結集し、北送同胞の窮状を一日も早く改善したい。

(1998.11.11 民団新聞)



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