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梁石日氏の『血と骨』が映画化

崔洋一監督が制作



■次代に翻弄された金俊平の人間性描く

 梁石日氏(61)の書き下ろした山本周五郎賞受賞作『血と骨』(幻冬舎刊)が、崔洋一監督(50)の手で映画化されることになった。崔監督が在日同胞問題をテーマとした作品を手がけるのは、日本の各映画賞を総なめにした「月はどっちにでている」(原題『狂騒曲』、梁石日作)に次いで二作目。制作費は約五億円を見込んでいる。低迷が続く今日の日本映画界にあっては、久々の大作となりそうだ。


■制作費5億円、年内にも完成

 『血と骨』は、昭和初期に済州道から大阪に出稼ぎにきた「極道も恐れる無頼漢」金俊平の破天荒な生涯を描いている。原作は、梁氏が実の父親をモデルにした原稿用紙約千四百枚の力作長編だ。小説中には大阪最大の在日同胞密集地であった猪飼野(当時)周辺の生活、民族差別、そして背景には在日同胞の権利と地位向上を求める戦前戦後の闘いも描かれている。

 映画化の権利を巡っては、出版後間もなく複数の候補者のもとで争われたが結局、「遅れて手を上げた」崔監督が映画化権を獲得した。今月中にも正式契約を結ぶ予定。脚本は鄭義信氏との協同作業で、今年の秋から冬にかけて準備稿を仕上げたい意向だ。撮影に入るのは、早くても二千年以降になる見込。完成すれば、崔監督としては十四作目の作品となる。

 原作では、主人公・金俊平は、家族を含め周囲のすべての人生を壊していく狂気の存在として描かれている。崔監督は「在日の枠組みといった一般論を超えた彼の生き方、彼の心の中を描きたい。周囲を翻弄し、だめにしていく根本がどこにあるのか。それを描かないと物語としても成立しないでしょう」と話している。

 崔監督は在日同胞の集住地区出身ではない。しかし、封建制度そのものの体現たる"ミニ金俊平"は、崔監督自ら目のあたりにしてきた。当時は「嫌いながらも、その力になにか不思議な魅力を感じた」と述懐している。当然、金俊平にしても「愛情を込めて描く。唾棄すべき、否定すべき金俊平とは思わない」ときっぱり。

 映画では当時の時代背景や社会背景についてはち密なディテールを積み重ねていくが、主眼を置くのはあくまで家族の姿だという。「歴史性、社会性を描こうとは別に思っていません。その時代に翻弄され、あらがって生きた家族の変遷、そして最終的には時代の波に飲み込まれてしまう金俊平を描きたい」と崔監督は話している。

 製作費五億円は崔監督の作品としてはこれまでに例がない。完成すれば、日本に限らずアジア、ヨーロッパ、米国などに配給していきたいと意気込んでいる。


■あらすじ

 主人公の金俊平は凶暴で冷酷、百キロを超す巨漢で、極道たちを相手に刃傷(ざたを起こし、何人も打ちのめしてしまう。その暴力の矛先は家族にも向けられ、隠れてもどこまでも追い掛けていく。ついには家族そのものを崩壊の極みに追い込んでしまう。外にあっては、欲望のおもむくままに違う女性を次々に渡り歩き、最後は被害を受けた女性から手痛いしっぺがえしを受ける。高齢になって体の自由を失った金俊平は、南北共同声明の二年後、「地上の楽園」に安息の地を求め、全財産をもって北朝鮮に帰国する。

(1999.02.10 民団新聞)



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