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地方参政権で開かれた日本社会を



 真夏日が続いた8月も数日を残すだけとなった。8月といえば、在日同胞の立場から戦争の悲惨さと平和の尊さを見つめ、祖国と日本との関係を考える月である。在日同胞の暦には広島、長崎への原爆投下と日本の敗戦にともなう祖国の植民地支配からの解放が永遠に刻まれることだろう。

 今年の8月には、在日同胞にとって象徴的な出来事が二つあった。一つは、広島平和記念公園内に移設された韓国人原爆犠牲者慰霊碑の前で慰霊祭が執り行われたことである。異国の地で非業の死を遂げながら30年も公園の外に押しやられていた同胞の霊を、遅きに失した感は否めないものの公園内で初めて慰安することができた。歴代総理として初めて小渕首相が慰霊碑に献花し、文字どおり"華"を添えたという。

 もう一つは、在日同胞をはじめ外国人の人権を著しく侵害していると内外から批判の強かった外国人登録法の指紋押捺制度が、1955年の導入以来、40年以上もの歳月を経て、ようやく一般外国人も含めて全廃される運びになったことである。


■強い意思が制度改善導く

 公園の外から内へと同胞犠牲者の環境が整備されたのは、排除から共生への転換であり、在日外国人の待遇が犯罪人扱いから外国籍住民へと改善されたのは、差別の対象ではなく同じく人権を備えた構成員であることの認知だと言える。

 二つの事例は、今後も日本に生きていく上で重要な意味をもつ。つまり、正しい主張と強い意思を結集し、諦めずにドアを叩き続けていれば、いつかは重い扉が開かれるという何よりの証拠だ。と同時に、国民か非国民かの二分法をもとにこれまで在日同胞を排除してきた「単一民族国家」という日本の虚構を揺るがし、定住外国人もこの地で共に生きる存在であると認めたことにほかならない。


■後ろ向きではない前向きな論議を

 在日同胞が権利の象徴として切望している地方参政権の獲得も国会審議を待つばかりとなった。一部で「相互主義」を持ち出したり、北韓とそれに追従する朝鮮総連(総連)に対する嫌悪感から消極的な意見があると聞く。だが、在韓日本人と在日韓国人の歴史的経緯と定住性を考えれば、「相互主義」を持ち出すこと自体が、ためにする後ろ向きの議論と言わざるをえない。

 これに対して、定住外国人への参政権付与について検討作業を進めてきた韓国政府は、最終段階に入ったとして9月初旬に訪日する金鍾泌総理が状況を説明する。未来志向の姿勢を評価したい。

 また、北韓とその御用団体を材料にして参政権論議にブレーキをかけることも無理がある。自国民の地位向上の象徴として地方参政権をとらえる韓国と、違い、北韓が参政権を要求していない以上同列に扱う必要はない。北韓の横槍に過敏になるのではなく、韓日友好交流関係の重みと国交正常化交渉がとん挫している北韓との間の現実を直視すべきなのだ。

 北韓のテコ入れで反対する総連にしても一部の「熱誠幹部」を除き、「朝鮮籍」同胞の離脱が年間5000人単位で進む状況が、その求心力の低下を示して余りある。

 日本が人権尊重の世界的潮流を受けとめ、国籍の違いをタテにした拒絶の壁を取り除き、地方参政権を付与することで、在日同胞が日本人と同じスタートラインに立つことができる。決して21世紀に先延ばしする問題ではない。世界が開かれた日本の政策を期待している。国会審議では真剣かつ前向きに議論を尽くしてほしい。

(1999.08.25 民団新聞)



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