民団新聞 MINDAN
在日本大韓民国民団 民団新聞バックナンバー
北韓はどこへ行くのか

黄長Y・元北韓労働党書記に聞く <下>



□■暴動の危機と徹底的な弾圧■□

幹部子弟も無条件に銃殺

  ■子どもたちが物乞いに歩き、家族が離散してしまう事態になると、暴動やクーデターなどの危険は。

 黄 食糧危機でそういうことが起こることは絶対にない。ただ死んでいくだけです。運動を起こすのはインテリ系統の青年たちで、自然発生的な組織がどんどん作られています。

  ■情報機関がそういう動きをキャッチしたら。

 黄 もう徹底的に弾圧してしまいます。東海地方の第六軍団の中に、ソ連の軍事アカデミーで勉強してきた軍人がグループになり、金正日反対の動きが組織化されました。その軍団の政治委員がかしらになり、とても強い統制力をもっていたが、慎重に計画を進めることができず、たまたま金日成がそこに行った時に、「ここでも飢え死にしている人がいる」と直接話したそうです。金日成が金正日にその話を伝えると、後に軍の保衛部長を通じて調べ、ばれるようになった。

 95年だと思いますが、ある日、「少佐以上の幹部はすべて集まれ」。集まってみたら、特攻隊を動員し包囲してみな殺してしまった。家族まで殺し、それこそ血の海をつくった。軍隊内部でも相当動揺しているという。幹部の子弟でも無条件に銃殺する。

  ■幹部は子どもが殺されても何も言えない?

 黄 何も言えないし、当然だと考えている。階級主義だから、地主と資本家の子孫は抹殺しなければならないと考え、親子の間でも階級闘争がある。そういうことを南朝鮮の人は全然知らない。金正日も人間だ、わが民族だと考えている。

  ■国名の「民主主義」がどこにもないという印象です。若者の実像は。

 黄 民主主義とは絶対相いれない。金正日と金日成の悪口を言ったら、裁判などないですよ。それを専門的にやっているのが、国家安全保衛部とか党組織部の10号室で、金正日がサインをすれば銃殺、家族は統制区域に送られる。北の若者たちは本当にかわいそうな生活です。軍隊に13年間服務しなければならず、最も重要な時期を銃と爆弾になって首領のために死ぬ練習のみしています。それは青年の希望を奪うもので、人生をまったく台無しにしてしまいます。

 軍隊から出ても集団的に炭坑とかきつい労働に送ってしまいます。もはや希望自体がなくなり、ただ頭が固くなって創造性がなくなります。この頃は経済状態が悪くなり、不良青年も増え、道徳的にも間題がたくさん起こっています。


□■金剛山観光と西海事件■□

韓国の「包容政策」見誤る

  ■金剛山での1時拘束事件をどう思いますか。

 黄 西海での銃撃事件があったでしょう。2億ドルの漁場を占領したいというのが、彼らの直接の欲望だと考えます。西海に海軍の8個の兵たん基地があり、私は軍隊記念日に講義をしましたが、「70年代末まで軍艦を造ったが、それ以降は新しい軍艦を一つも造ってくれない。部品も配給されない。しかし、火力は強い。八戦台だけで南朝鮮の西海の艦隊すべてと戦争ができる」。「目の前のすばらしい漁場だけつかむようになれば、われわれ自体でいくらでも武装を現代化することができる。そのことを金正日に伝えて下さい」と言われたことがあります。

 この度の事件は、韓国が包容政策をとっているから譲歩するのではないかと彼らは考えたと思うんです。戦争をしようとしたのではなくて、挑発をしてそこを奪うようにうまく働きかけたら、南朝鮮は必ず譲歩するだろうと。

 ところが、意外にも強く反発したものだから、とても大きな恥をかかせました。

 それで報復として、次官級会談でも挑発的に出てきたし、金剛山でも女の人を抑留した。

  ■一触即発、すわ戦争かと思ったのですが。

 黄 彼らは局地戦にしろ全面戦争にしろ今は戦争の考えはないです。考えられない。

 情勢が不利な時には体制を保持する、有利な時には赤化統一をするという二つの目標を立てているから、今は戦争を考えていない。不利だから。

 金剛山観光は彼らにとって莫大な利益です。だから韓国が強く出れば出るほど、彼らは困るんです。次官級会談も必ず彼らの方から開催しようと要求してくると思います。肥料をなぜもらわないですか。必ずもらいますよ。だから一つも心配することはない。


□■離散家族とテポドン■□

望み薄い離散家族再会
ミサイル発射は当面なし

  ■次官級会談のテーマ、離散家族問題は触れられたくないものですか。

 黄 彼らは肥料だけもらえば、ここの政権の体面を立ててやるために何か一つ空約束をすればいいと見ています。離散家族というのは越南家族で、在日朝鮮人の帰還者よりももっと厳しく統制しているからもうほとんど死んでしまったか、実際には多くない。今残っているのは教育された人たちだけで、金持ちはみな山奥に移って今どうなったかわかりません。何か事件が起これば、強制的に犯人にして捕まえ銃殺する。

 だから、墓参りに行くということはその人たちがどう扱われたかばれてしまうから絶対に許されない。以前も離散家族は平壌で会うようにしたが、どのように教育してから会うようにするか大騒ぎでした。離散家族の問題を取り上げたら大きな打撃です。実際には応じないですよ。

  ■テポドン2号の発射が危惧されていますが。

 黄 私はペリーが報告書を出すまでは絶対に実験はしないだろうと見ています。計画自体は撤回しないが、国際的に騒ぎ立てると彼らはやらない。核実験もそうですよ。

  ■国際世論を敵にまわしてまで、冒険主義的なことはしないですか。

 黄 彼らは絶対に冒険主義ではないどころかとても細かく計算している。体制を脅威にさらしているアメリカを牽制するためには、まず中国との友好関係を回復しなければならない。これが第一です。ペリーの報告を通じて包容政策から強硬政策への転換を恐れています。中国をしてアメリカに包容政策を賛成し、強硬策に変わるのを反対するよう働きかけています。

 もう一つは、武力で威嚇しながら包容政策を受け入れるふりをして経済的援助を引き出すこと。金剛山観光を包容政策の大きな成果と宣伝しているから、そう受け取るようにして利益を得ようとするわけです。

  ■自分たちでミサイルを造る技術はあるのですか。そこに在日の科学者が関わっているという話は。

 黄 ありますよ。国内の秀才と言われる人がみな集まっている。ソ連が崩壊する前に核爆弾やミサイルなど相当な水準にありました。平嬢のソ連大使らは、国際書記の私に「核爆弾は造らない方がいいですよ」としきりに言っていました。あの時すでに300キロのミサイルなどあったんですよ。

 技術的な援助は総連を通じて持ってくるけれども、在日の科学者たちがどれくらい援助しているかそれは知らない。あってもそれは何人かくらいですよ。


□■南北統一と在日同胞■□

総連改革へ働きかけ急ぐ

  ■統一へのプロセスと方法は。

 黄 戦争を防ぎ戦争ができない状況のもとでは、内部崩壊の方法で早く金正日を打倒しなければならない。金正日は絶対に平和統一をする相手ではなく、政権を自分個人の政権だと考えている。金日成が政権を与えたのではなく、彼が奪ったと言ってもいいくらいです。それくらい政権欲が強いし、政権を掌握する力が卓越している。強い軍隊と鉄壁な防衛陣、思想体系と組織体系をもっている。

 そういう彼がなぜ屈服しますか。いくら援助を与えたところで今の位置と変えることができますか。絶対にないですよ。だから彼を置いて統一しようとするのは、完全に空想でしかない。米軍が駐屯していますが、安保体制を土台に南北対話、四者会談、六者会談を通して朝鮮問題を国際化しなければなりません。

 重要なのは人権問題で迫ることです。最もいい考えは、南朝鮮と海外同胞が食糧や医薬品、衣服を直接与えたいと盛んに宣伝することです。例えば、板門店の前でトウモロコシを何万トンも積みあげ「持って行きなさい。われわれの貨物自動車で送ってあげる」と同胞愛から迫っていく。北への物資援助で経済の主導権を握れば、人民の意識が変わっていくでしょう。

 また、「統制区域を見せてくれ。亡命者の家族を見せてくれ。なぜ外国の新聞を読んだり、放送を聴いてはいけないか」と迫る。マスコミの力で人権問題を騒ぎ立てれば、人民にも情報が入っていきます。

  ■在日同胞へのメッセージを。

 黄 北にのみ追従する朝鮮総連を目覚めさせることです。内部的には朝鮮大学の知識欲を持つ新しい世代と民団系の若い人を連携させる。在日同胞社会の改革に理想を掲げ総連にも日本人にも働きかける。その意味で「民団新聞」の役割も大きい。わが国が統一したら日本の競争相手が増えるという疑心暗鬼がありますが、日本と韓国、中国が一つの固まりになってアジアを復輿する。アメリカ、ヨーロッパとの相互協調で世界市場に門を開き、民主的な方法で早く資本主義を発展させることです。北の同胞を愛する立場で真の開放をもたらすことです。

おわり

(1999.08.25 民団新聞)



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