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柳美里原作、朴哲洙監督

「家族シネマ」日本公開へ



キャンプで家族の和解を

■絆と不信…陰影えぐる
 10月2日から東京皮切りに封切り

 韓国での日本語映画解禁第1号となった「家族シネマ」(柳美里原作、朴哲洙監督)が10月、東京・有楽町にあるシネ・ラ・セットを皮切りに全国各地でロードショー公開される。在日韓国人二世作家・柳美里さんの第116回芥川賞受賞作品を映画化したもの。崩壊した在日韓国人一家を通して、家族のつながりという普遍的なテーマを描く。

 柳さんの原作は、一度崩壊してしまった家族が和解することの難しさを陰影濃いタッチで描いた自伝的要素の強い作品。

 父親(梁石日)は自己中心的、家父長的、儒教的…。ギャンブルに身をやつし借金地獄、生活費として入れるのは1日五百円だけ。いわば典型的な在日韓国人一世そのものといえる。生活費は母親(伊佐山ひろ子)がキャバレー勤めで稼ぐ。さらには夫との不和のはけ口からか、公然と不倫に走ってしまう。このため夫婦の間でいさかいが絶えない。

 3人の子どもたちは父母の間で毎日のように繰り返される修羅場を見て育ち、心の中に深い傷を負う。長男(中島忍)は自閉症に、長女(柳愛里)は両親の不仲の責任を一身に背負い、何回も自殺未遂を繰り返す。一方、次女は女優に。長じて家族5人はそれぞれバラバラに暮らす。

監督の意に反して父母の雲行きは怪しく

 20年後、5人の家族は一つ屋根の下で再会する。次女の提案で、家族をテーマとした映画を撮ることになったからだ。父親は和解のチャンスとばかり、借金してまで家を一軒新築してしまう。果たして和解できるのか、バラバラのままなのか。大勢のスタッフを率い、機材を抱えて乗り込んだ監督(金守珍)も結末を想定していない。

 家族の絆を取り戻そうと涙ぐましい努力をする父親。しかし、妻の側に一度芽生えた夫への不信が容易に氷解するものではない。夫婦はお互いに映画を撮っているのも忘れてエゴむき出しの争いを展開、原作の悲劇性を吹き飛ばす笑いのエネルギーを提供する。

 朴哲洙監督は95年、料理好きの女性と拒食症の女性が隣り合わせに住んだらどうなるかというモダンホラー的な映画「301・302」を撮っている。

 今回の映画の中でも狂言回し的なカメラが虚像の家族の姿を追い、本来のカメラがありのままの家族の姿を客観的に浮かび上がらせる。韓国では98年の芸術映画賞に輝いた。

 父親役で不思議な存在感を見せた梁石日さんは「家族とは何かを考えるきっかけになれば」と話す。長女役には柳美里さんの実の妹、愛里さんが扮しているのも話題のひとつ。

 カラー113分。一般公開は10月2日から東京・JR有楽町駅前のシネ・ラ・セットで独占ロードショー公開。初日はゲストによる舞台あいさつが予定されている。この後、大阪のシネマアルゴ梅田、シネ・リーブル博多駅1・2ほかで順次公開される予定。

(1999.09.08 民団新聞)



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