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「利用しづらい介護保険制度」



 日本の介護保険制度は、どれだけ外国人高齢者の生活実態やニーズを反映しているのでしょうか、疑問です。平均3000円とされる保険料、介護サービスを利用するにあたっての一割の自己負担金は、公的年金受給者を前提としているといいます。制度的無年金者が多く、たとえ受けていてもほとんどが低額な高齢在日同胞にとっては、大きな重荷になるからです。


■無年金同胞に負担感

 大阪・堺市にある特別養護老人ホーム「故郷の家」には、現在80人の在日同胞一世のお年寄りが暮らしています。このうち66人は無年金者だということです。自治体から支給される「特別加算金」1万円を唯一の収入としている人たちです。現在は国民健康保険料3000円を支払っても、7000円が手元に残ります。タバコ代が何とかまかなえる程度です。孫が来たら小遣いにと、使わずに楽しみにしているお年寄りも多いと聞きます。

 これら入所者は、介護保険が実施されると、介護サービスの利用料や食費を自己負担しなければならなくなります。金額はサービス費の10%。通常ならば、一カ月当たり2万7000円の利用料と、2万3000円の食費を負担すると想定されています。日本厚生省は低所得者対策として負担を軽減するための経過措置を発表しましたが、5年間の特例措置としています。少なくとも制度的に無年金状態に置かれている在日同胞を念頭に置いたものではなさそうです。

 制度の導入を前にした昨年秋、介護保険の実施主体となる各市町村では、老人福祉計画の策定に必要なニーズ調査を行いました。ここでも在日外国人は必ずしも対象とはなりませんでした。国勢調査では定住外国人も含まれますが、住民基本台帳を基礎資料とすることが多い自治体は、同じ住民ながら、在日外国人を結果的に施策の対象から排除したことになります。


■きめ細かい配慮こそ

 社会保障の分野で、在日外国人は長らく制度の枠外に置かれてきました。国籍要件が順次撤廃されていったのは、1979年の国際人権規約批准、1981年の難民条約加入を契機としてでした。

 ホームヘルプサービスなど各種在宅福祉サービスはあっても、「在日外国人は利用できない」と思っている在日同胞高齢者がいてもおかしくありません。自治体には利用者本位のきめの細かい配慮こそ求められています。

 その点、在日同胞高齢者とその家族を対象として、9月1日から専門窓口を開設した大阪市の例は前向きです。「外国人も日本人も区別なく、同じ住民として受けるべき行政サービスは公平に提供していこう」というもので、これからの進むべき基本方向を示しているのではないでしょうか。

 六十五歳以上の在日同胞高齢者は全国で約六万九千人。このうち大阪府内在住高齢同胞に限っては、三分の二が無年金者だという調査結果もあります。このため、高齢になっても、その労働で生計を支えているのが現状です。年金生活者が三分の一程度の在日同胞にとっては、所得税や市町村税だけでなく、介護保険料についても非常に不利な条件下に置かれることになります。

 介護保険制度は2000年4月からのスタート。これに先立って、10月からは全国で要介護認定の申請受付が始まります。在日一世たちが「生きていて良かった」と思えるような、そんな血の通った介護保険制度となるよう、制度の一層の改善を望みます。

(1999.09.22 民団新聞)



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