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分断超えた教育理念追求

建国初代校長・李慶泰氏出版会



政治的中立を貫いた李氏の人望からか、
民団、総連関係なく、南北の壁を超え、
300余人が参加した出版会で
ひとつになって万歳をした

■民団、総連300人が出版会に集う

 【大阪】解放直後の1946年に白頭学院を創設し、初代校長を勤めた李慶泰氏(88)の足跡と業績を記した編著『分断と対立を超えて―孤高の民族教育者・李慶泰の歩み―』(海風社)の出版記念祝賀会が12日、帝国ホテル大阪で開かれた。


■恩師の健康回復を祈って

 あいにく李氏は持病の糖尿病に脳梗塞が加わり、出席できなかったが、300余人の卒業生や教育関係者が政治的中立を貫き通した一徹な教育者を慕い、恩師の健康回復を祈って「在日同胞万歳、祖国の自主的、平和的統一万歳」と唱和した。

 祝賀会は「在日の小さな分断と対立を越えることによって、さらに大きな和解と統一への道に連なる会にしよう」と司会の朴炳閠さん(八期生)のかけ声で幕を開けた。同学院を設立に導いた神戸の実業家、チョ圭訓氏(初代理事長)の四男、明鉉さん(17期生)に李先生の孫から感謝の花束が贈呈された。

 高敬弼実行委員長の開会辞に続き、刊行委員会の宋連玉さんが「冷静な先生が一度だけ感情的になった。無敵のホッケー部を試合に出させなくした日本の偏狭さに対してだ」とエピソードを紹介。「発刊を通じて民族問題に悩む世界の人に光りになれば」とあいさつした。

 同学院の金重根理事長や朝鮮奨学会の高桂煥代表理事、20年間教鞭をとった李承徳氏らが次々と李先生の功績を称えた。

 民族教育ネットワークの稲富進共同代表は日本人の立場から、「在日の問題は日本人自身の問題と教えられた。在日の教育権を保障する共生社会を」と語り、作家の若一光司さんは「熱心さと真摯さに打たれ一気に拝読した。平和と民主主義の本質が問われている日本社会だからこそ、自己実現のために基本的人権と多文化共生の価値観が大切」と強調した。桃山学院大学の徐龍達教授は「教育理念のすばらしさに敬服してきた。南北分断が残念だ」と語る。

 祝賀会では民族教育促進協議会のサムルノリやドイツから駆けつけたという朴佳連さんのピアノ演奏が続き、李先生のビデオ上映なども会場を湧かした。廉命任夫人は「祖国統一に向けた若者の育成を」との願いを託した謝辞を代読。詩人の金時鐘さんが、「徳を積んだ人は一人では人生を終わらない」と古代中国の先人の言葉を引き、「在日は二分されているが、一方にくみすることなく、在日として生きることが同胞社会の礎になる。この場がそれを証明した」と結んだ。


李初代校長の謝辞を
代読する廉命任夫人

■「ライオン先生」の業績、教え子たちが編集

 在任中はその声の大きさでライオン先生と恐れられた先生の前では、民団と総連の線引きもない。一万余人の卒業生の心を一つに、有志が8年前から聞き取りを始めて本は発刊した。

 呉秀珍(二期生)さんは、「軍国少年だった。日本の学校でキムチの弁当を隠していた小学生が、李先生や建国校との出会いで変わり、一生の宝物を得た。在日の権利と意志をどう生かすか。民族の誇りを捨てるなと言われた言葉が、座右の銘になっている」。


■「在日」軸に卒業生ら集う

 在日韓国科学技術者協会の高基秀会長(四期生)は、「韓国、朝鮮、日本の立場だけではなく、世界の一人として自身を位置づけ、ワールドワイドのスタンスで見渡すよう教わった」と語る。乾杯の音頭をとったハイ今漢(一期生)さんは、「先生の功績を乗り越える子弟がいまだ現れない。先生の理念を超えていかなければ」と決意を新たにした。在日韓国人関西医師会の姜健栄会長(七期生)は、「黙っていても人間としての自尊心とアイデンティティを醸し出す人。民族教育の哲学者だ」と振り返る。

 「先生と一緒にサッカーをしたり、プール造りのために大和川から砂を運んだ。可愛がってもらった」と言うのは、民団東京本部の梁東準国際部長(十期生)だ。民団大阪府本部の金ゲン秀国際部長は「言葉によって民族の一員となり、文字によって民族の心に触れ、歴史によって民族の魂が宿る。そういう現場中心の先生だった」と語る。ワンコリアフェスティバルの〓甲寿委員長は、「先生の意志をワンコリアが引き継いでいると紹介され、感無量」と喜んだ。

(1999.09.22 民団新聞)



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