| 多様化する生活者団体の使命
民団は言うまでもなく、日本の津々浦々に組織網を有する全国組織である。地域単位では弱い面があっても相互に補い合い、全体として、民団理念を具現する力強い基盤を築いてきた。しかし、その全貌は意外にみえにくいのではないか。そこでお届けするのが「これだけは知っておこう‐民団基礎講座」だ。
■□ 「民団」という名は略称の域を超え、愛称となって久しい。同胞たちは「民団」の2文字に愛着を感じ、そこに強い帰属意識を感じている。 創団時の名称「在日本朝鮮人居留民団」は、1948年8月の大韓民国政府樹立を受けた同年10月、「在日本大韓民国居留民団」に改称された。在日同胞社会ですでに実勢となっていた日本定住志向を是認し、名称から「居留」を削除したのは創団から50年が経過した1996年だ。 60年の歳月は、民団を鍛え上げてきた。所在地の日本はもとより、韓国でも唯一の在外国民団体、あるいは在日同胞60万を代表する団体として認知され、世界各地の同胞団体からも在外同胞ネットワークの最重要拠点として重きをなす。 民団はすべての在日同胞に開かれた組織である。普通に生活する「民」であるところの同胞たちによって、同胞のために運営される「団」体だ。祖国南北の対立は在日同胞社会にも深刻な葛藤をもたらし、民団を対韓撹乱・破壊工作の基地にしようとするなど、政治的に利用しようとする動きは後を絶たなかった。しかし民団は、いかなる政治勢力や宗教団体の浸透工作をも排除し、生活者団体としての存在感を高めてきた。 「民団」の2文字には、韓国政府樹立に2年先立つ歴史の重みが宿り、破壊の危機にさらされ続けながらも組織を守り発展させてきた同胞たちの心血が詰まっている。そしてまた、紆余曲折を経ながらも、歩んできた道筋は正しかったとの思いが凝縮されている。在日同胞社会と喜怒哀楽をともにしてきた「民団」に、多くの同胞が自分と家族の人生と民団の歩みを重ねてもきた。 「民団」という名は古風で、いかめしいとの指摘もあり、創団50周年に際しては、改称を模索する動きもあった。しかし、「民団」の名は揺るがなかった。この愛称は今後も、団員たちの帰属意識の源泉になるだろう。
■□ 在日同胞は時を追って活動分野を広げ、価値観を多様化させてきた。民団は、本体が全国組織として同胞の総意を集約するのみならず、年代あるいは活動分野に応じて同胞たちの自己実現をサポートし、相乗効果を生み出そうとする複合的な組織といえる。 民団は在外国民登録完了者によって構成され、団員数は2004年12月末現在で約40万4千人を数える。中央本部のもとに全国49の地方本部があり、各地方本部のもとに306の支部がある。 傘下団体には在日大韓婦人会(全国46地方本部)、在日韓国商工会議所(全国34組織。その傘下団体に在日韓国青年商工会)、韓国戦争参戦者で構成される在日学徒義勇軍同志会、在日大韓体育会、在日韓国青年会、在日韓国学生会、在日韓国科学技術者協会がある。 また、民団が設立母体となり、組合員の圧倒的多数を団員で構成するなど、民団と不可分の関係にある民族金融機関の全国組織として、在日韓国人信用組合協会(全国9組合)がある。 このほかにも、在日韓国青年会議所や出身地別の各道民会、さらには在日韓国人医師会、在日韓国人職業会計人協会などの職能団体、新聞報道、文化芸術、教育・奨学など各分野の専門機関を含む多数の友好・関連団体を擁している。
■□ 民団は任意の大衆団体であると同時に、韓国政府に公認(1948年9月)された唯一の在外国民団体だ。日常的な親睦行事から高度な政治性を要求される各種対日交渉および祖国平和統一への寄与まで、在日同胞の、在日同胞であるがゆえの多種多様な要求を集約・事業化し、先頭に立って推進してきた。 民団ではよく、宣言・綱領・規約と言い、この順位は不動だ。宣言は理念を指し示し、綱領はその理念の集約である。そして規約は、理念を具現するための組織を司る。 民団は創立時から宣言・綱領によって理念・目的を明らかにしている。民団の主要会議・集会では、中央本部、地方本部、支部を問わず、会場正面に太極旗と民団旗を掲げ、国民儀礼を行い、民団綱領を唱和する。これは団員であること、民族の一員であることを厳粛に意識させる。 「5大綱領」の名で親しまれてきた民団綱領は、その筆頭に大韓民国の国是遵守を謳い、次いで在日同胞の権益擁護、経済発展、文化向上を期し、世界平和と国際親善を期すことを明示している。宣言は民団の基本姿勢を8項目に絞り込んで明らかにする。要約して紹介しよう。 @韓民族の民族文化と伝統を継承し、大韓民国の在外国民として生きる。 A祖国統一は人類共通の自由民主主義理念のもと、平和的かつ自主的に成就するよう努力する。 B在日同胞社会は不幸な歴史を共有する運命共同体であり、国籍と所属を超え同質性の回復に尽力する。 C民生安定と福祉増進、商工活動振興など経済発展に努力し、豊饒な同胞社会建設の先頭に立つ。 D日本社会で尊敬される市民として地域社会の発展に貢献し、韓日友好親善の増進に積極寄与する。 E日本の住民として義務を果たしていることに照らし、政治・経済・社会のあらゆる分野で日本国民と同等の待遇を受けるべく全力を傾注する。 F在日韓国人の総結集体・唯一の同胞指導団体との自覚のもと、開放的な運営と奉仕の姿勢で全同胞社会を包容し、同胞社会の統一・繁栄の先頭に立つ。 G祖国韓国と一体となって発展に貢献し、本国国民と500万海外同胞との紐帯を堅固にして民族的大同団結に寄与する。 この宣言が示すように、民団は在日同胞社会のためばかりか祖国・韓国と居住国・日本それぞれに対しても、自らに敢えて重い責務を課してきた。 それは、在日同胞社会の発展のためには同胞自身の自助努力はもちろん、韓国の躍進による国際的な地位の向上と、アジアに対して伝統的に閉鎖的な日本社会の国際化が欠かせないとの認識、豊かで健全な在日同胞社会を築くことはその構成員のみならず、韓国と日本のそれぞれの発展、さらには両国の関係改善に資するところ大であるとの信念に基づいている。
■□ 民団には民主主義制度が根付いており、談論風発、百家争鳴の伝統がある。しかし、いったん決議・決定されたことは遵守される。 民団は議決(立法)・執行(行政)・監察(司法)の3機関制によって運営され、徹底した3権分立体制になっている。ただし、全民団を代表するのは執行機関の長・中央団長である。 民団の最高意思決定機関は3年に1回の中央大会であり、3機関長の選出のほか宣言・綱領・規約および主要活動方針の採択などを行う。中央大会から中央大会までの意思決定機関は1年に1回の中央委員会で、年間の活動総括・活動方針、決算・予算を審議・承認する(昨年の規約改正で、中央委でも規約改正が可能になった)。中央委員会から中央委員会までは中央執行委員会が意思決定を行い、これらの決定を事業計画化して実行するのが中央常任委員会だ。 3機関長には主義主張にかかわりなく、団員資格があり活動履歴など当該要件を満たしていれば誰でも立候補できる。また、中央大会の代議員(定員550人)は地方本部や傘下団体などから選出される(なお、昨年の規約改正で、10人で1票分を行使できる選挙人制度が導入された)。 中央3機関長の立候補者は複数になるのが通例であり、選挙管理規定の枠内で激しい選挙戦が展開されることも珍しくない。 規約に基づいた中央本部の運営システムは、地方本部、支部へと準用されており、地方本部3機関長、支部3機関長も当該地域の代議員もしくは全団員(総会制)によって選出される。 民団には、構成員の意思が中央指導部まで届く仕組みや相互点検機能が働いているほか、全国地方団長・傘下団体長会議、日本全国7ブロックの地方協議会、全国支部団長交流会などがあって、意思疎通・合意形成のための横軸・縦軸が整っている。
■□ 民団は、韓日両国の境界にあって双方の国家的な保護に恵まれなかった在日同胞の生活を守るため、同胞自らのボランティア精神によって運営されてきた。世界的に見ても、最も伝統と実績のあるNGO(非政府組織)の一つと言える。 韓国憲法は在外国民保護をうたっており、在日同胞の生活権擁護は本来、日本に駐在する政府公館の主要業務である。排他的な差別と偏見が渦巻く旧支配国で生活を営む在日同胞に対しては、とくに手厚い配慮が求められてよかった。 しかし、韓国政府の対在日同胞政策は長期にわたって不在、あるいは曖昧と言わざるを得なかった。韓国の国力そのものに限界があったことも大きな要因であろう。 また、在日同胞問題とは、普遍的な人権問題であると同時に、植民地支配の清算と密接に絡み合う特異な問題であり、韓日両国のアツレキになりやすかった事情も見逃せない。在日同胞は、特殊な歴史的背景と立地がゆえに、深刻で多様な問題を抱え込まざるを得なかった。生存権を守るために、民団は自ずと在日同胞のための準政府機関、あるいは地方公共団体的な性格を帯びるようになったのも当然の成り行きであった。 ただし、莫大な財政資源を必要とするにもかかわらず、それを税収で賄うこともできなければ、大量の人的資源を動員しなければならない事業であっても、そのために強制力が行使できるわけでもない。 この民団を担う組織幹部は1世から3世まで、20代から70代までと世代・年齢層が広く、有給の専従者のほかに多数のボランティアによって構成されている。 中央本部・地方本部・支部など各級組織が公式に計上する年間事業予算は50数億円にのぼっている。これには、構成員である団員の拠出する団費や経済人の賛助金などが大きな比重を占める。これとは別に、ボランティア幹部が自弁で支出する活動資金も膨大で、年間総額は約50億円と推算されてもいる。
■□ 民団の業務や事業は多岐にわたって枚挙にいとまがない。在日同胞のライフサイクルに即したサービスと、在日同胞と韓国、日本をつなぐ市民レベルでの各種サービスを豊富に取り揃えた総合商社であり、地域に密着したコンビニエンス・ストアの趣すらある。 基礎的な通常業務にはまず、地方公共団体の窓口と似通った在外国民登録、旅券申請手続き、出生・死亡・婚姻届などを含む戸籍整理がある。「法律相談室」や「生活相談室」などを通じて、韓日両国の行政当局と同胞との間に発生する手続きごとやトラブルの処理にも当たる。また、日本領海上で発生した韓国船のトラブルの事後処理などに対応するのはもちろん、最近では韓国からの訪日者の急増にともなって増えてきた事故や事件の処理にも当たることが多い。 全同胞的な親睦行事だけでも数が多く、中央本部が開く民団フェスティバルをはじめ地方本部・支部単位で一斉に開催するものに新年会、花見・野遊会、敬老会、10月マダンなどがあり、近年では朝鮮総連同胞と合同で行うばかりか、他の在日外国人と楽しむケースが増えてきた。 また、日本各地の地域祭りに「朝鮮通信使」や「農楽隊」などを編成して民族色豊かに参加するのも当たり前になり、民団同胞が中心になって多くの国籍からなる地域の定住外国人と日本人住民のための多文化交流フェスティバルを開催する傾向も目立っている。 こうした通常業務のなかでも、民団が最も力を注いでいるのは相互扶助の精神に基づいた同胞たちの冠婚葬祭への協助であり、ライフワークの重要な節目に合わせたサービスだ。 全日制民族学校の運営支援、日本の公立小・中学校に通う同胞子弟のための民族学級の設立・運営支援をはじめ、課外制民族学校や韓国語教室を各地で直接運営している。常設機関による教育だけでなく、小中学生を対象にした夏季臨海・林間学校や500人を上回る規模のオリニ・ソウルジャンボリーを開催している。 今年40周年を迎える高校生・大学生を対象にした母国夏季学校も民族教育の重要な一環になっており、この世代を対象にした奨学金事業にも充実を期している。朝鮮総連と共同運営する形式の(財)朝鮮奨学会、民団員の基金を基に運営される(財)韓国教育財団のほかに、民団や関連・友好団体が運営する奨学機関が全国に5つある。 同胞子弟の就職斡旋事業や同胞どうしの出会いの場を提供するブライダル事業もある。生涯教育の制度として講座制民族大学を設け、著名大学教授など一流講師陣を整えて全国で開催した実績もある。 近年その重要性が増しているものに高齢者福祉があり、民団は同胞集住地域を中心に通所介護サービス(デイケア)を全国展開している。また、同胞団体による老人ホームの設立・運営を支援するとともに、現在は民団主導による老人ホームの建設も推進中だ。
■□ 民団の構成員は公序良俗に反しない限り、政治的・宗教的な信条を理由に排除されることはない。しかし民団は、特定の政治・宗教勢力に利用されることはもちろん、影響されることも断固排撃してきた。これこそ、共同体に基礎を置いた民団の創団時からの一貫した身上だ。 在日社会はあまたある海外同胞社会とは違って、日本による植民地政策によって派生した性格が強い。05年はその植民地支配を実効化した乙巳保護条約(第2次韓日協約)の強要締結から100年に当たり、民団はこの年を「在日100年」と位置づけた。05年はまた、祖国光復60周年の年でもあり、在日同胞はすでに植民地時代より長い年月を日本で過ごしたことになる。 虐殺・迫害や過酷な強制労働を余儀なくされた植民地時代が終わっても、同胞に対する同化・追放政策のもとで日本社会の排他的な差別と偏見は温存された。韓日関係は険悪な状態が長期にわたったばかりか、良好に推移しているようでも歴史認識や独島問題などで一気に紛糾する不安定さを抱え、事あるたびに日本社会の在日同胞に対する迫害や締め付けが強まる状況にある。 在日同胞は祖国光復後、法的地位など望むべくもない、国籍すら未確定の寄る辺なき民として出発し、祖国、居住国いずれの国家的な保護に恵まれないなかでも、文化的な共通性を失わない民族的な少数者として存在してきた。 在日同胞社会は紛れもなく、歴史的背景と文化的な矜持を同じくした民族共同体であり、「団結しなければ滅びる」ことを身をもって知る共同体の、自然的な欲求から生まれ、育まれた自治組織が民団である。 祖国光復直後の45年10月、全同胞を糾合して在日朝鮮人連盟が結成されたものの、左傾化した朝連指導部は在日同胞を日本の革命・階級闘争に動員することに血眼になった。民族共同体の自然的欲求から逸脱して特定の政治勢力化を目指す動きに対抗して創立されたのが民団であり、民団はその原点を忘れない。 民団は創立以来、3・1節式典、6・6顕忠日、8・15光復節を挙行し、民族史の苦難と栄光を思い、矜持を新たにしてきた。昨年11月には「在日100年」を集大成した「在日韓人歴史資料館」を開設した。この施設は時を追って充実することになる。民団は、透徹した歴史意識を育むとともに、新たに発生する諸問題に能動的に取り組むべく、より未来志向的な意識改革も怠らないだろう。民団は民族共同体に基礎を置き、そこに根ざした欲求を事業化する機能体組織として、さらなる前進を続ける。
(2006.1.1 民団新聞) |