掲載日 : [22-09-18] 照会数 : 3480
残業代・未払賃金の請求…管理責任者とは認められない場合も
Q
会社を経営している私の友人から聞きました。退職した従業員が会社に対して残業代等として530万円の未払賃金の支払を求める労働審判の申立をしてきたとのこと。
会社は弁護士に依頼して対応したものの、弁護士の助言もあって300万円を支払うということで和解したということです。友人が言うには、その従業員さんは総務部の課長という管理職で役職手当も支払っていたのに、弁護士からは残業代を支払う必要があると言われたとのことです。
また、未払賃金の時効期間が延長され、今後もさらに延長されるため、今後同じような請求をされたら支払金額はもっと増えるとも言われたようです。
私も会社を経営していますが、仮に、複数の従業員から同時にそのような請求をされた場合、会社の存続にも関わります。
友人から聞いたことが本当なのか教えていただけますでしょうか。
A
◆残業代支払いの要否
従業員が、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)の場合、残業代を支払う法的な義務はありません。ただし、深夜手当は支払う必要があります。
管理監督者に該当するには、以下の4つの要件全てを充たす必要があります。ポイントは経営者と一体的な立場にある労働者で、その立場に相応しい賃金を得ているか否かにあると言っていいと思います。
①労働時間、休憩、休日等に関する、労働基準法上の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容である。
②労働時間、休憩、休日等に関する、労働基準法上の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を持っている。
③現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものである。
④賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされている。
そのため、店長や課長等の肩書きが与えられていても、管理監督者とは認められず、残業代の支払を命じられる可能性があります。
◆未払賃金時効期間延長
賃金の時効期間は、2020年3月31日までは2年間でしたが、同年4月1日から発生する賃金の時効期間は3年間とされました。3年間というのも当分の間(この当分の間がいつまでなのかは明確化されていない)に限定された経過措置であり、それが過ぎれば5年間に延長されます。
時効期間が2年と5年とでは、2・5倍の違いがあり、単純に言えば未払残業代の請求額も2・5倍になります。
私の限られた経験では、1年間分の未払残業代は100万円を超えることが多く、これが5年間分だと、元金だけで500万円を超えます。
また、仮に訴訟まで発展し付加金というペナルティを科せられると、未払賃金と同額の付加金を支払う必要があり、その場合、会社に対して計1000万円以上の支払が命じられることになります。
さらに、未払残業代の元金に対して、在職中は年3%(2020年4月1日以降発生分)または年6%(2020年3月31日以前発生分)の遅延損害金が発生し、退職後は退職日の翌日から年14・6%という高い利率での遅延損害金が発生します。
未払残業代を請求できる金額が大きくなれば、それに応じ弁護士に依頼するメリットも大きくなり、また、受任に積極的になる弁護士も増えると思われます。
ご相談内容については、早めに社会保険労務士や弁護士に具体的な事情を伝えてご相談された方が良いと思われます。
弁護士 梁栄文(大阪弁護士会所属)