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サラムサラン<37> 私のエリザベス
 2008年、「韓(から)の国の家族」という拙著が韓国で翻訳出版された時である。刊行に合わせて訪韓し、出版社に挨拶に出向くと、広報用の文章を一時間以内に仕上げるよう言われた。

 出版社はアシスタントを一人つけてくれた。編集者の康善英さん。利発そうな若い女性だった。ろくに自己紹介をかわす間もなく、共同作業が始まった。私が拙い韓国語で自著のPRとなる要点を述べ、彼女がきちんとした韓国語に直してパソコンに打ち込んでいく。 しばらく作業を進めるうちに、気がついた。この若き編集者の心に響く感動の感度が、抜群によいのである。私が切れ切れに語る「国境や民族を超えて結ばれた友情と人間愛」とか、「真の隣人としての共生の願い」など、作品の核となる言葉を聞くや、瞳を輝かせて、「チョアヨ!(いいですね)」と、打てば響く反応が返ってくる。知性とハートのきらめき、その大元となる溌剌とした精神の輝きがまぶしかった。

 その時の印象があまりに鮮やかだったので、帰国してEメールを出した。彼女からも返事が来て、以後、時々にメール交換をするようになった。そこに綴られた文面、文章の感性がまた実にいい。

 表現が細やかで、事務連絡とはおよそ異なる次元で言葉が紡がれている。休みに砂丘に旅行した思い出を書いてきた時にも、白い砂の印象や、日常を離れて考えた人生に対する真摯な思いなど、その哲学的、文学的な内容に、私は胸打たれた。

 突飛な連想かもしれないが、私はジェーン・オースティンの名作「高慢と偏見」のヒロイン、エリザベスを想起した。知性と感性のきらめき、そして根っこにある人としての生真面目さが群を抜き、輝いている。

 ソウルに行くと、一度は会って話をする。彼女の韓国語の回転は速く、外国人の私は集中を要するが、内容が詰まっていて興味が尽きない。会うたびに、やはりエリザベスだと感心する。

 この春には、出張で東京にやってきた。慌しいスケジュールの中、夕食後に会ってワインを開けた。同僚の女性職員も一緒だったが、乾杯の時、「世界平和のために」と口にしたのは、驚きもしたが、彼女らしくもあった。酒の勢いが手伝ってであろうが、「女性編集者は女じゃない」などと同僚と息巻き、「韓国は発展したけれど、哲学がない」と嘆いてもいた。 別れ際には、私からいつも同じ話をもちかける。「いつか作家におなりなさい」‐。数少ない若い世代の韓国の知友、将来が実に楽しみな「私のエリザベス」である。

多胡 吉郎

(2011.11.10 民団新聞)
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