| 文と絵 イ・オクベ
訳 みせ けい
出版社 らんか社 | | チュソクに欠かせないソンピョン(松餅) |
韓国はきのう29日まで「チュソク(秋夕)」の連休でした。チュソクは旧暦の8月15日で、今年は9月27日でした。毎年、当日とその前後の日が祝日ですが、今年は日曜日と重なったために振替休日もあって長かったのです。 わたしたちは単にチュソクといっていますが、韓国では「ハンガウィ」とか、「中秋」とも呼ばれています。中秋といえば日本では「中秋の名月」。満月をめでながら月見団子を食べる日ですよね。韓国では国民の多くが故郷に帰ってご先祖さまにお供えものをし、お墓参りにいく日です。久しぶりに家族や親せきが集まり、一緒に過ごす大切な連休でもあります。 今回は、そのチュソクを題材にした絵本、『ソリちゃんのチュソク』を紹介しましょう。 作者のイ・オクベは、2004年に富山県で開催された「第7回アジア児童文学大会」のシンポジウムにパネラーとして招かれました。わたしもこの大会に参加したのですが、彼はこの絵本についてつぎのように語りました。 「名節のチュソクは、ほとんどの伝統文化が消えさった今日でも、生き残ってきたいくつかの伝統文化のなかのひとつです。……わたしたちの美しい風習を、子どもたちに絵本をつうじて伝えたかったのです」 そう。彼は自らの娘であるハンソル(ソリちゃん)のために、はじめての絵本をつくりました。さて、内容です。実はこの絵本にはストーリーがありません。ソリちゃんの目をつうじてチュソクを記録した、ドキュメンタリーなのです。 チュソクの前日、まだ暗いうちにソリちゃんたちは家をでます。でもバスターミナルはもうすでに人でいっぱい。出発したけれど車はなかなか進みません。休憩所で、カップラーメンを売っている人たちがいます。ソリちゃんたちはそのラーメンで腹ごしらえ。日が暮れるころ、ようやく故郷に着きました。表紙の絵は、ソリちゃん一家がハルモニの家に到着したときの絵です。 その夜、親戚たちが集まり、月を見ながらソンピョン(松餅)を食べました。 いよいよチュソクの日、朝早く起きてご先祖さまに料理を供えて茶礼をし、お墓参り。農楽隊のおはやしに合わせて、みんなでたのしく踊ります。そしてつぎの日の朝、故郷をでて、夜遅くに家にもどるのです。 イ・オクベはあるインタビューのなかで、「絵本は10年前のチュソクの光景だ」といっています。発売されたのが95年ですから、今から30年ほど前のチュソクの様子が記録されているということですね。 ところでこの絵本は01年に日本の「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書に選ばれました。翌年にサッカーのワールドカップ韓日共催などがあり、韓国をよく知ってもらうために選ばれたのでしょう。韓国の本が課題図書に選ばれたのは、あとにも先にも、この絵本ひとつだけなのですよ。 韓国の人たちの生活のなかで今日も生き残っている伝統文化、チュソクを伝えるこの絵本は、日本だけでなく、台湾、中国、アメリカ、スイス、フランスでも出版されています。 この絵本をお子さまと一緒に見ながら、みなさんの家のチェサ(祭祀)を語るのもいいでしょう。 (2015.9.30 民団新聞) |