早いテンポのはやり歌ばかりだ。韓国の懐メロで言えば「雪」や「駅」「草」「無情」などがつく「故郷」もの、日本歌謡では都はるみや北島三郎らの演歌をたまに聴かないと、食事で言えば肉や野菜ばかりで米のご飯を食べられないような、そんな飢餓感に襲われる。 Kポップにもほとんど関心はなく、「少女時代」や「KARA」の<見事な肢体>のダンスにも食指が動くどころか、セクシーをウリにするなんぞ韓国の名折れだとさえ感じ、夢中になっている女房や娘に毒づいたこともある。返ってきた言葉は「なにさ! 権威主義!」。 俳優でもある狂言師の野村萬斎がKポップを褒めちぎっている。「少女時代」を初めて見たとき、そのダンスは「ダンサー」をも自任する自分をうならせたという。「激しく早く踊れる人は山ほどいるが、リズムに追われるのではなく、リズムを自分のものにできている人はほんの一握りだ」とか。 狂言といえば、能と同じく猿楽から発展した伝統芸能で、主として科(しぐさ)と白(せりふ)で表現する喜劇である。幼少から立ち居振る舞いや発声など厳しい修練を積む。そんな世界で4歳にして初舞台を踏んだ達人が絶賛するのだから、彼女らのダンスは「すごい」はず。 「少女時代」や「KARA」を努めて見るようになっても、どこが「すごい」のかまだ分からない。いぶかる女房や娘に経緯を説明すると、かつてなじられた腹いせか、それとも「こうあるべきだ」と押しつけが多かったせいか、「権威主義者は権威に弱い。眼力がつくはずない。素直に感じればいいのよ」と報復気味の苦言を呈された。ポップになるのは楽じゃない。(D) (2012.6.27 民団新聞) |