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新しい地平切り拓く若手在日同胞<朴沙羅>

「在日」のあなたに…いま何をしているか

朴沙羅 神戸大学・大学院国際文化学研究科講師

◆これまでの生き方・現在の研究テーマ
 私は京都生まれ、京都育ちの「在日」3世です。小学校から高校まで京都市内の公立校に通い、大学入学から就職まで京都大学に在籍しました。子どもの頃から絵本を読んだり空想したりするのが好きな、少し変わった子だったそうです。

 私はこれまでずっと民族名(朴沙羅)を使っています。そのため、小学校1年生から4年生まで「朝鮮人は帰れ」といじめられました。日記帳を破られたりしたそうですが、全く覚えていません。

 ただ、1つだけよく覚えていることがあります。それは、私をいじめたグループのリーダーは「在日」の男の子だったことです。私はその子と一緒に民族学級に通っていました。民族学級の先生は私たちに、「民族に誇りを持て」といつもおっしゃっていました。しかし、そこで同じように学んでいた子が私に民族差別をしたのです。私は「民族」なるものを褒め称える人や発言を疑ってかかるようになりました。

 それと同時に、私はずっと疑問でした。なぜ日本人は私に、ある時は「朝鮮人は帰れ」と言い、別の時は「あなたはもう日本人みたいなものだよね?」と言うのか。なぜ私は日本人に自己紹介するたびに緊張しなければならないのか。現実社会への疑問や怒りと、本の中にあるような「こうではない世界」への憧れとの間をずっと、行ったり来たりしています。

 大学に入学した当初は、何を研究したらいいかわかりませんでした。しかし、たまたま3回生の時に取った授業の課題で「誰かからインタビューを取ってこい」というものが出されたので、伯父の1人にインタビューしました。そこで済州4・3事件の体験談を聞いてしまいました。この話をもっと知りたいと思って大学院に進学し、博士論文を書きました。

 博士論文のテーマは、「第2次世界大戦直後の日本の入国管理制度の成立と朝鮮半島からの移住はどう関係していたのか」というものです。中でも、「朝鮮半島から移住してきた1世たちは、どんな制度ややり取りの中で「外国人」あるいは「朝鮮人」であると見なされるようになったのか?」という問いに答えようとしました。その結果は、本(『外国人をつくりだす』ナカニシヤ出版、2017年)として出版されました。

 私は昔から、歴史が好きでした。今のこの社会がどうやって出来上がったのかを調べれば、そうでない世界のあり方もわかるかもしれないと思ったからです。博士課程までずっと東洋史の授業を取っていました。

 だけど、東洋史の教授が「あなたは1世の聞き取りをすべきだ」とおっしゃったのと、自分の中にある、社会への怒りや疑問をそのままにしておくことができなかったのとで、社会学を学ぶことにしました。

◆民族的アイデンティティーについて
 私が「自分は何者か?」と考え始めたのは、小学校に入学する頃です。そこから20年くらい、ずっと民族的アイデンティティーとは何か、自分は韓国人なのか、日本人なのか悩んできました。社会学が教えてくれたことは、アイデンティティ‐は他の人とのやり取りやその場の状況によって決まるということです。私が何者かを決めるのは私だけではありません。

 自分が(「身長165センチの人」や「今日の晩ご飯にカレーを食べたい人」などではなく)「韓国人」とされるのはどういう状況でしょうか。そのときにどんな仕組みがあり、どんなやりとりがなされているでしょうか。そう考えることで、自分の外側の世界と、そこで自分たちがやっていることに目を向けることができます。

 これまで、民族名を使っているが故に嫌な思いをしたこともたくさんあります。けれども、民族名を使う利点もあります。まず民族差別をするくだらない人間をすぐに発見できます。私が民族的マイノリティーであるという属性を利用しようとする人も、すぐに発見できます。

 そして何より、いろんな人から「実は僕も/私も韓国人なんです」とカミングアウトされます。「在日」だからといって、仲良くなれるとは限りません。ですが、同じような寂しさを抱えている人と出会える喜びは−−たとえその出会いが一瞬であり、とても臆病なものであったとしても−−とても大きなものです。だから私は、そう伝えてくれた人々のことはずっと覚えていて、思い出すと元気になります。アイデンティティーは心の中のどこかにあるのではありません。それは人々とのやり取りの中にあります。

◆若い世代へのメッセージ
 私たちは歴史の中の存在です。韓日の歴史がなければ、私たちは今ここにいて、こんな思いをしてはいません。「こんな思い」というのは、辛いことだけを指しているのでありません。もしあなたが女性であるなら、あなたが私の書いたものを読んでいるということは、私やあなたのハルモニたちと比べて、どれほど恵まれたことでしょうか。差別された時にそうとわかるということは、どれほど恵まれたことでしょうか。

 ほんの1世代、2世代前の人々が私たちの今の生活を成り立たせるためにどれほど苦労してきたかを忘れることはできません。そして、私たちの歴史に気づくことは、今の社会で権力を持たず苦しめられている人々のために、自分は何ができるかを考えることにつながっています。 

 ヘイトスピーチが日常化している今の日本において、自分のルーツも含めて、自己を肯定することは大切です。しかし、あなたが「在日」であることは、あなたという素晴らしい人間を作ってきた要素である限りにおいてのみ、重要なことなのです。重要なのは、あなたが何者であるかではなく、あなたが他の人々といま何をしているかです。だから、自分が何者であるかを問うときには、あなたにそう問わせているその場の状況にも目を向けましょう。

 そして、かつての私たちの父祖と同じように日本社会で苦しんでいる、多くの人々のために働きましょう。

 おごらず、慢心せず、現状に安住せず、常に自分のできることを問い、よりよい社会のために活動し続けることを通じてしか、私たちは日本人と、そしておそらく同胞とも、連帯できないのではないでしょうか。
 1984年、京都生まれ。2013年、京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学・京都大学・2013年)。立命館大学国際関係学部准教授を経て2016年より現職

(2018.01.01 民団新聞)
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