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サラムサラン<32> 亡国の貴公子・南宮璧
 どんな男だったのだろう。ノンフィクション小説「わたしの歌を、あなたに 柳兼子・絶唱の朝鮮」を書きながら、胸にずっとその疑問があった。

 南宮璧(ナムグン・ビョク)‐。1920年に同人誌「廃墟」をたちあげた夭折の詩人。「廃墟」はシラーの詩による命名で、廃墟から春を目指すとの意を汲んだ。植民地朝鮮の現実は、詩人の目に「廃墟」としか映らなかったのだろう。

 南宮には写真が残されていない。周辺の証言から姿を想像するしかない。早稲田大学に留学したが、学生服を着ず、おしゃれなスーツに身を固めて、普通の学生とはおよそ違っていたという。京城(現ソウル)がモダニズム都市として輝きを見せるのは1930年代だが、1921年に27歳で没した南宮は、時代に先駆けたモダニスト的な感性の持ち主だった。  日本留学時代の日記では、音楽関係の女学生たちが頻繁に登場する。もてたのだろう。かなりの美男子だった筈だ。芸術に憧れ、詩を読む若き朝鮮の知識人は、ちょっとショパンのような感じで、亡国の貴公子然とした哀しみの風をまとい、大和撫子の心をきゅっとつかんでしまったらしい。

 天才詩人と形容されるが、すべてに天才肌のきらめきを放っていたのだろう。美術にも詳しい、音楽もよく知っている。時代に突出してしまった感性が行き場をもてあまし、ボヘミアグラスのようなきらめきを発しながら、そこはかとない哀しみを漂わせていた。

 さて、その南宮が1920年、柳宗悦、兼子夫妻の朝鮮訪問と音楽会の開催に、積極的に関わった。哀しみに打ちひしがれる朝鮮の人々に歌で愛と友情を届けたいとする夫妻の心意気に感動し、夢を共にした。

 「音楽を聴いている時だけは、こんな私でも、もう一度真に生きてみたいという気になる」‐。南宮の日記の一節だが、芸術による再生にかけたその夢の背後には、20代の若さで時代の闇を見抜いてしまった、凍りつくような絶望がある。

 単なる民族主義では割り切れない、愛国の情は人一倍だが、そこにすら絶望してしまったような孤の憂愁をにじませる。どこまでも孤独で、逆に、だからこそ永遠のヒーローの魅力に輝く。

 奇妙な発想だが、この人を主人公に、推理小説のシリーズなど面白いかもしれない。東京で、京城で、刑事の手に負えない怪事件にからみ、シャーロック・ホームズ顔負けの大活躍をする。そんな突飛な発想に駆られるのも、この人の持つ天才肌の輝きゆえなのである。歴史の闇に埋もれさせるには、あまりにも惜しい。

多胡 吉郎

(2010.9.29 民団新聞)
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