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サラム賛歌<11>古い町に新しい息吹きを
チェさんが改修している家の軒先に吊るされた生活用具
セッテ博物館館長 チェ・ホンギュさん

 漢陽大学で建築を教える冨井正憲教授に、ソウルの梨花洞を案内してもらったのは2年前だ。

 大学路で待ち合わせ、まずマロニエ公園の奥にあるセッテ博物館に向かった。

 セッテとは錠前。薄暗い館内には、どっしりと重みのある錠前がずらりと並んでいる。家具に付けたかわいい錠も。木製の大門にあるピッチャン(かんぬき)には、亀や鯉などの愛らしい意匠も。庶民の手垢のついた物が並ぶこんな博物館が、私は大好きだ。

 ここの館長が梨花洞の町おこしをしていると聞いて、私の胸は高鳴った。

 裏手には、車も通れない急勾配がある。すぐ下はおしゃれな繁華街なのに、坂道を上ると、とたんにひなびた町になる。ここが梨花洞だ。

 住民の生活用具や写真などが展示されているマウル博物館もある。

 「あそこも、あそこも」と、冨井先生が次々と指さす。セッテ博物館の館長が改修中の家だと言う。

 1950年代に文化住宅として建てられた小さな二階建ては、どこか日本家屋を思わせる。老朽化した数軒を買い取り、博物館やゲストハウスを作っているそうだ。

 冨井先生の説明を聞きながら歩いて行くと、麦わら帽子を被って作業中の人がいた。セッテ博物館館長、梨花洞マウルプロジェクト仕掛け人、チェ・ホンギュさん(58)だ。

 「アメリカの大学院でデザインを勉強している息子が夏休みで帰省した時、浄化槽の穴を掘れと言ったら、なんで自分がこんなことをしなきゃいけないのかと文句を言うんです。今この作業ができるのは、私とおまえの二人しかいないと言って、手伝わせました」 日焼けした顔でチェさんは笑った。機械の入れない狭い場所は、手で掘って土砂を運び出さねばならない。まるでブルドーザー並みのがむしゃらさだ。

 鍛冶屋で修行を積み、やがてソウルの江南で「崔家鉄物店」という金物屋を営んだチェさんは、持ち前のデザインセンスの良さで多くの顧客を獲得し、財を成した。

 しかし江南暮らしには馴染めず、いずれは江北のどこかに定着したいと夢見ていた。都市の再開発に取り残された梨花洞は、まさにチェさんが探し求めていた場所だった。元からいる住民と仲良く共存しながら、古い町に新しい息を吹き込んでいく。それがチェさんの夢見る町おこしだ。

 最近私は友人を誘って、再び梨花洞に出かけてみた。セッテ博物館の内容は、さらに充実している。上り坂の壁画の前では、たくさんの中国人観光客が写真を撮っていた。家々の改修も進み、小さな博物館や工房、コーヒーショップがいくつもできている。平日なのに地域を巡るツアーの参加者が順番待ちするほどの賑わいだ。

 麦わら帽子姿のチェさんに、また出会った。挨拶するとそっと手招きして、まだ公開していない家の中を見せてくれた。魚焼き網が額に入って、白壁を飾っている。この人の手にかかれば、生活用具はすべてアートになる!

 一人の夢が住民の心を動かし、やがて行政を動かした。梨花洞マウルプロジェクトは、現在も着々と進行中。その進化の様子を、また見に出かけたい。

戸田郁子(作家)

(2016.7.13 民団新聞)
 
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