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<Life>めげずに生きる 老老介護
「今日は何が食べたい」と妻の李花月さんにやさしく語りかける高哲永さん
高哲永さん(75)
24時間、妻のため
自身も脳梗塞 懸命のリハビリ

 高齢者が高齢者の介護にたずさわる「老老介護」。体力的、精神的な負担は大きく、過労で家族が共倒れになるケースや、うつ病などの精神的疾患に陥る人たちは後を断たない。「夫婦で死のうと思った」と話すほど精神的に追いつめられていた高哲永さん(75、東京・荒川区)に聞いた。

 都営団地に暮らす高哲永さんはひとりで、パーキンソン症候群、痴呆の症状などもある要介護5の認定を受けた妻、李花月さん(74)の介護をしている。

 実は高さん自身も昨年、脳梗塞で倒れ約2カ月間の入院を余儀なくされた。退院した当時は両腕が上がらないばかりか立つこともままならず、箸も持てないほど身体は弱りきっていた。

 「こんな状態では生きていくことができない」からと、壁にもたれながらの歩行練習や、手を動かすなど独自のリハビリを自宅で根気よく続けた。ふらふらしながらも歩けるまでに回復。2人の娘たちに迷惑はかけたくないと必死だった。

 昨年9月に退院したばかりの高さんを驚かせたのは、花月さんのあまりの変わりようだった。入院前、要介護2だった花月さんは足や腰に痛みはあったものの、自力で何とか歩いていた。だが、数カ月家を空けている間に具合は悪くなり、歩行は困難になっていたと話す。

紐で結び合いトイレを知る

 現在、週3回家事援助でホームヘルパーが訪問。花月さんは足立区のデイサービスセンターを利用している。自宅では花月さんを支えてトイレに付き添うが、高さん自身も体力はないからひと仕事だ。

 以前、ひとりでトイレに行こうとした花月さんが途中で何度も倒れた。夜中、ベッドで寝る花月さんの足首に紐をくくり、傍らに敷いた布団で寝る高さん自身の手首に紐の片端を結ぶ。「家内が目を覚ましてトイレに行くのが分かります。ゆっくり休むことはできません。家内も安定剤は飲んでいますが、休まらないようです」

 買い物にも行かなければならない。食器も洗うが、自分の身体を支えきれずに台所で座り込んだことも数えきれない。「自宅にいる時は24時間見ます。なるべく自分の側に置いてなんとか頑張ってきました」

 高さんは疲れのピークに達していた。今年5月のことだ。トイレから出てきた直後、台所で座り込んでしまった花月さんを見て、「俺もだめだ」と思ったという。

 高さんは茶碗を洗っていた手を止め、花月さんの顔をみつめ涙を流しながら話しかけた。「2人でどこかに行って死のうかと言いました。家内もそうしようか、あんたが死ぬなら自分も死ぬと言ったんです。その言葉を聞いた途端、一緒に泣きました。本当に疲れていた」

 だが、しばらくして花月さんの「もうちょっと頑張ってみよう。孫もいるから」と語りかけた言葉に、ふっとわれに返った。「死ぬのはいつでもできると家内は考えていたのかも知れません」と当時を振り返る。

 今年夏、花月さんの身体にこれまで見られなかった症状が出てきた。「よだれをたらすようになり、これはちょっとおかしいと思いました」と当時の異変について語る。大学病院でパーキンソン症候群、さらに痴呆症、隠れ脳梗塞と診断された。医師から「怒ってはいけない、2回、3回と同じことは言わない」などのアドバイスを受けた。

一縷の望みは老人施設入所

 「家内は私や子ども、孫の事は認識していますが、生年月日は忘れ、本名も思い出せません。今まで自分で作ったおかずのことや、昨日食べたものも思い出せません」

 「家内を何とかしないと2人ともだめになる」という危機感を初めて持った。現状を伝えた医師から、「共倒れになる」と老人施設への入所を勧められた。最初にあたった都内の施設は、「韓国、朝鮮の人は遠慮させてもらっている」と断られた。次の施設では申し込みはしたが180番代で待機中。いつ入所できるか見当もつかない。時間に余裕はない。

 情報もなく次に打つ手だてもない。途方に暮れていたときに目にしたのが11月28日付の民団新聞だったという。

 高さんは同胞医師の運営する老人施設に連絡をとった。「この記事を見なかったら自殺を考えていたかも知れない」と緊迫していた状況が伝わってきた。

 入所できるかどうかまだ分からない。一縷(いちる)の望みがあればそれにかけたいと思っている。「どこまでも2人で」と話すほど絆は強い。50年間、苦楽をともに歩んできた花月さんのために、少しずつ前に歩み始めた。

(2007.12.20 民団新聞)
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