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サラムサラン<27> 伝説の歌手、趙東振
 80年代の半ば、韓国に足しげく通っていた頃、ひとりの歌手の曲に夢中になった。趙東振(チョ・ドンジン)という。

 マスコミ嫌いで、歌謡ショーのような番組には登場しない。それでも、当時すでに3枚のLPを発表していて、知る人ぞ知る大歌手だった。アングラのスターというような表現もされていた。

 曲をジャンル分けすれば、フォークになるのだろうが、アコースティックギターの弾き語り風に歌う歌は、シンプルなメロディーにのせ、静謐で瞑想的な気分のなかに孤独や夢を歌いこむ。極めて詩的で、単純ながら哲学的なほどに深い。ちょっと尹東柱の詩を思わせるところもある。

 「泣いているのかい、君は、泣いているの? ああそれでも、君は幸福な人。まだなお残る星を見ることができる、それほどに美しいふたつの目があるのだから」‐。初期の代表作「幸福な人」の歌い出しである。

 趙の歌に特徴的なことは、挫折感や喪失感がベースとしてあり、その哀しみを乗り越える光が模索され、そこに深い慰謝が生まれるという点だ。

 光州事件の弾圧後、若者の間にひろがった挫折感が背景にあるのだと聞いたことがある。面白いことに、バブル日本になじめなかった私は、趙の歌に出会って癒された。

 1999年から私は10年間、英国に暮らしたが、星空を眺めながらふと趙の歌を口ずさむことがあった。独りきりの異郷暮らし、しかも離婚などあって、孤独や喪失感を抱えていたのだろう。趙の歌は、地球の裏側でも私を励ましてくれた。

 日本に帰国して3度目の趙との出会いが復活した。ユーチューブで懐かしい歌を聴く楽しみを発見したのである。

 気をつけてみれば、「スミレ」という歌が「冬のソナタ」の挿入曲になるなど、韓流ドラマや映画でも、往年の歌がイメージソング風に使用されている。歌の持つ叙情性やポエジーな雰囲気が、そうしたリバイバルを可能にさせるのだろう。

 「スミレ」という歌の最後は、こう結ばれる。「ボクが最後に君を見た時、君はとても穏やかで、窓越しに遠い眼差し、君は微笑みながらボクに言ったね、暗闇の中でも目を覚ましていたいと」‐。

 不治の病で亡くなった女性への追憶だと言われるが、時代の閉塞のなかに挫折を強いられた者の心情とも読める。闇の中でもかっと目を見開けと、混沌を貫く一条の光を提示しているかのようだ。

 その詩と歌が時代に投げかけた問いかけは、今もって不滅だ。国境すらない。趙東振の歌は、必ずや「復活」を続けることだろう。

多胡 吉郎

(2010.7.14 民団新聞)
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