飲みに行けば歌うのが当たり前だったカラオケ隆盛期のこと。歌が上手いのか下手なのかも分からないながら、聴くのも歌うのも嫌いでなかったせいか、勧められればマイクを握った。何軒かで、「お上手ね!」と囃されれば、その気になるもの。何時しか好んで歌うようになっていた。 そのうち、歌をほめられることより、「いい声してますね」と言われることが多くなった。ある著名な俳優・声優の声に「そっくりな素敵な声よ」などと聞かされていたこともあり、その言葉通りに素直に受けとめ、喜んでいた。それが「いい声ですね」から「声はいいのにね〜」となり、「ああゆう歌い方もあるんですね」と評されるようになった。 気づくまでに時間がかかった。「歌は下手ですね」と言われていたことに。自信喪失なんてものではない。しかし、歌わねばならない機会が減ったわけではないのだ。 そこで一案。よし、誰も知らない韓国歌謡のレパートリーを広げて、原語で歌おう。「奇策で勝負だ」と心に決めた。日本人相手なら下手さもごまかせるに違いない。 目論見通り、上手い下手の前に新鮮さが受け、「教えて、教えて」などと頼まれるようになった。そしてまた、図に乗った。ところが、凄まじい韓流の勢いだ。日本人たちが韓国歌謡をなんと上手く歌うようになったことか。発音もかなり正確だ。こっちが苦手な若者向きの早い歌でもこなす。 韓流に弾き飛ばされるとはね。改めて、居場所がなくなった気分だ。そして今はもっぱら、カラオケのない小料理屋が憩いの場になっている。(J) (2011.10.5 民団新聞) |