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韓国理念葛藤の深層…第18代大統領選挙戦を追う<10>
ゼネスト勝利を掲げた<民主労総>の民衆大会(大邱=8月29日)

国家権力にも<主思派>の影

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<一心会>事件と大統領府
国情院長が電撃辞任…「<青瓦台386>に負けた」

 統合進歩党の前身である民主労働党の核心党職者2人が検挙され、有罪となった《一心会》事件は、民主労働党と左派勢力だけに激震を走らせたのではなかった。

 この事件で06年10月24日から11月13日までの間に、いずれも386世代の関係者5人が逮捕された。不可解だったのは、最初の逮捕者が出てから2日後の26日、こともあろうに捜査の最高責任者である国家情報院院長・金昇圭が辞意を表明、大統領・盧武鉉がこれを即座に受理したことだ。

 後任は国情院第1次長の金萬福(08年2月まで在任)だった。彼は中央情報部からの生え抜きながら、386世代との交流があり、時の青瓦台(大統領府)に近い人物とされた。保守系メディアは「金萬福次期院長がこのスパイ事件を捜査する適任者かどうか、疑問だ」と一斉に報じ、金昇圭も懸念を表明した。

打ち切り圧力

 金昇圭の電撃辞任について世界的な暴露サイト「ウィキリークス」は、「10月25日、盧大統領は金院長に辞任を要求した」との、駐韓米大使館の電文(06年11月1日付)を公開。「月刊朝鮮」(06年12月号)は、「内幕‐<386スパイ団>事件と主思派‐金昇圭は<青瓦台386>たちに敗れた」との見出しで論評した。

 統合進歩党の今回の内紛で《一心会》事件が再び注目を集めるなか、金昇圭は「東亜日報」(5月30日付)との電話インタビューで、「私たちの社会にまだ、現実を知らずに《従北》する人が多いという事実を国民が知ったのではないか」と語り、問題意識の広がりを歓迎しながら、辞任の真相についてこう明らかにした。

 「青瓦台は事件の捜査を望まなかった。この発言が記事になれば、ひとしきり大騒ぎになるだろうが、捜査の途中で青瓦台から『捜査を打ち切ったほうがいい』との発言が相次いだ。青瓦台の参謀の大部分が(捜査に)反対した」

 青瓦台は当時、北韓が10月9日に核実験を強行したために、包容(太陽)政策の継続をめぐって苦悶していた。そこに登場したのが青瓦台を揺るがしかねない《一心会》事件だ。早期の幕引きへ圧力がかかっても不思議はない。

 《一心会》の総責として懲役7年の判決を受けたマイケル・チャンは、80年代初から学生運動に参加、その後、渡米留学して米国籍を取得し、シリコンバレーでIT技術を学んだ。帰国後すぐ、韓国情報技術院の課長に就任。IT業界に人脈を広げて実業家に転身し、複数のIT関連企業を設立した。

 彼は米国滞在中に北韓の在米工作員に包摂され、89年から99年までの間に3回にわたって北韓入りし、朝鮮労働党の党員になった。彼の最終的な狙いは、IT網を通じて韓国のすべての情報が集約される青瓦台にあったのは確実とされる。

 大統領府で情報を統括していたのが386世代の元活動家たちだ。チャンはIT実業家として、<青瓦台386>に接近したと見られている。《一心会》の摘発を青瓦台に事前連絡しなかったとされるのも、捜査の最大の焦点がそこにあってみれば当然のことだろう。

一挙に中枢へ

 韓国で昨年7月に刊行され話題になった『私は保守だ‐進歩に魅入られた国・大韓民国を滅ぼす5つのコード』(著者・趙佑石、出版・東アジア)はこう言う。

 「89年に出帆した代表的な市民団体の経済正義実践市民連合と、94年に発足した参与民主主義と人権のための市民連帯の前・現職活動家416人のうち、36%に当たる150人が青瓦台や政府に入った。その公職は(金大中・盧武鉉)両政府を合わせて313であり、1人が2つ以上の職責に就いたことになる」

 同著はさらに、「金大中・盧武鉉の10年間に、相当数の左派系知識人が現実参与を名分に公職に進出した。盧武鉉時代はとくに、権力と一体になった感があり、市民団体を橋頭堡に権力者さえ牛耳ろうとした」とも指摘している。

 金昇圭の電撃辞任は、被疑者たちと関係のあった<青瓦台386>が捜査が進展すれば苦境に陥ると見て、盧武鉉に捜査中断を強力に要求した結果と言われる。運動圏出身者が国家権力の中枢にまで力をおよぼしていたのだ。そんな彼らが国会議事堂に足場を確保しないわけがない。

 比例代表制が初めて導入された04年4月の第17代国会議員選挙は、盧武鉉に対する弾劾訴追案が可決され(3月12日)、大統領の職務権限が停止されるという韓国憲政史上初の異常事態のなかで行われた。

 賛成198、反対2の圧倒的な差による可決であったにもかかわらず、凄まじい逆風が吹き荒れ、盧武鉉を支持する実質与党のヨルリンウリ党は49議席から過半数を上回る152議席(全299議席)に躍進した。民主労働党が10議席を獲得、最左翼政党が初めて院内に進出するという付録までついた。

 この第17代総選こそ、国会議員あるいはその秘書官として、学生運動圏の多くが制度圏政治に軸足を移す決定的な契機になった。

 金大中・盧武鉉の両政府を誕生させる大きな原動力となり、国家権力の中枢に浸透した386世代は、《主思派》主導の学生運動に連なったからと言って、必ずしも《従北》に分類されるわけではない。ただ、李明博政府の4年半である程度は衰退したとしても、隠然とした親北・反米の性向のまま根を張っているとの評価が一般的だ。

情報トップも

 ここで再び、金萬福に眼を転じよう。彼は日本の月刊誌「世界」(11年2月号)に、「紛争の海・西海を平和と繁栄の海にするために」と題して寄稿し、国家情報院から「在職中に知り得た秘密を暴露している」として、国家情報院職員法違反の疑いで告発された。

 西海の南北境界線問題を検証したこの寄稿文で彼は、「西海平和協力特別地帯」構想を提起した盧武鉉を高く評価する半面で、李明博を「対北封鎖政策で一貫」したと非難、10年11月の延坪島砲撃事件についても、「今日の朝鮮半島の状況は、『李明博政権が北朝鮮崩壊論を確信して南北関係を悪化させた結果』だという考えを一層確信するようになった」と述べている。

 「北韓の対南破壊・撹乱工作から国を守る国家情報院のトップにして、このような親北的な意識を持っていたのか」。当時、在日同胞社会でも驚きの声があがった。

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<民主労総>と<全教組>
親北・反米が際立つ…過激路線に反発、離脱続く

 <民主労総(全国民主労働組合総連盟)>は、世界でも有数の戦闘的労働団体だ。また、民主労働党の結成主体であり、統合進歩党でも党員約7万5000人のうち約3万5000人と半数近くを占める(5月現在)。

 <民主労総>は4月の第19代総選で、主として統合進歩党に肩入れし、同党と対立する進歩新党には一部地域区で支援するにとどまった。《主思派》による比例代表候補の競選不正に端を発した統合進歩党の内紛でも、不明瞭な態度に終始している。

 <民主労総>は8月13日、中央執行委員39人中27人の賛成で統合進歩党への「支持撤回」を決議した。これは同党を掌握する《主思派》に打撃となるはずだ。だが、「党内の何かの勢力や政派間の利害とは無関係な民主労総の独自かつ主体的な決定」であるとして、《主思派》に反発する《PD派》が中心となった「新しい大衆的進歩政党」をつくる動きに対しても一線を画した。

南=悪、北=善

 様子見とも言えるこのスタンスは、論難の的になってきた《主思派》にとって悪いことではない。《主思派》が<進歩政党>への浸透を本格化したのは、01年9月、<君子山の約束>と呼ばれる9月テーゼを採択してからだ。その後3年で、《PD派》が結成した民主労働党の指導権を奪うのに成功した(連載8=8月29日付既報)。

 この9月テーゼには、「民主労組運動を反米自主化を主とする運動に発展させよう」との決議も含まれていた。本来は《PD派》の基盤であった<民主労総>においても、《主思派》が影響力を拡大していると見なして間違いはなかろう。

 <民主労総>はこの5月、《従北》的な要素をふんだんに盛り込んだ<労働者統一教科書‐労働者、統一をお願い>を発行した。「月刊朝鮮」(8月号)に掲載された<教科書>の内容から、北韓人権問題に関する記述をまず見ておこう。

 「北韓の人権に対する誤解は、社会主義に対する誤解から生まれるか、北韓に対する基本的な理解がない状態で発生する場合も多い。(中略)北韓は西側の主張する人権の概念を無条件的に自分たちに適用することを拒否している。(中略)国権の守護が人権に優先し、自主権が守護されるとき人権が保障されるという、人権即ち国権であるという<われわれ式人権>を主張している」

 「国権」とは、金王朝受益者だけの権利であり、「自主権」とは、それを守る先軍政治に民衆を動員するプロパガンダにすぎない。それにもかかわらず、人権蹂躙を事実上擁護し、批判の出発点を「社会主義」に対する誤解、北韓に対する「無理解」にすり替えようとしている。

 北韓の人権問題とは違い、韓国の建国前後史や現状には徹底して攻撃的である。堂々たる世界国家となった韓国は、それでも、米国と親日・保守の分断勢力がつくった<悪の国>。世界最貧の破綻国家である北韓は、それでも、抗日独立運動を継承する統一勢力がつくった<善の国>。こうした構図を史実とは正反対か、もしくは歪曲・誇張した記述で描き出す。

 <悪の国>の政府・企業に対しては、社会的混乱や国力消耗もいとわず、<労働貴族>との批判も無視して自らの<権利・人権>の伸張を過激に要求して恥じない。<善の国>に対しては、「国権」と「自主権」の名で民衆の権利と人権の蹂躙を許して恥じない。あきれるほどの小児病的な倒錯と言うべきだろう。

 <民主労総>には左派的指向が最も強い<現場派>、大衆的労働運動を強調する<国民派>、その中間に位置する<中央派>の3派があるという。社会から浮き上がった過激な闘争路線は、組織力を確実に衰退させてきた。<国民派>のソウルメトロ労組(組合員約8600人)の脱退の動きに、<民主労総>が裁判でストップをかける事態も生まれている。

 教職員組合の一つで<民主労総>の主要な加盟団体である<全教組(全国教職員労働組合)>はどうか。

 01年には<我がはらからを生かす統一>と題した教材を発行した。<労働者統一教科書>と同じく、北韓の社会科学院歴史研究所の「現代朝鮮歴史」(85年発行)に依拠したものだ。だが、<民主労総>は巧妙にぼかしを入れたのに対し、<全教組>は表現を韓国式に改めただけで、原典の過半を丸写しにしている。

<先軍>を称賛

 典型例をあげれば、「南の同胞を反動政治から解放するために、人民軍将兵は勇気と献身性を発揮しなければならない」との金日成演説(50年6月26日。6・25全面南侵の翌日)をそのまま引用、「先軍政治は、世界政治史でも例を見ない独創的な政治方針」とまで記述している。

 05年2月には、「先軍政治の偉大な勝利万歳」と書いたポスターをホームページに載せ、同年5月には、加盟教師が中学生180人をパルチザン追慕祭に動員して、猛反発を招いたこともある。最近では、朝鮮総連が運営する朝鮮学校に340万円を寄付して問題になった。

 <全教組>は《主思派》活動家の再生産工場とは言えないまでも、親北・反米の意識を育てる土壌を耕してきたのは間違いない。しかし、市民的感覚からあまりにかけ離れた。11年6月の組合員数は6万4600人で、最盛期の03年9万3800人から大幅に減少。20代が占める割合は09年の6・9%から11年には2・6%に減少している。

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<従北勢力>と北韓独裁
打てば響く関係に…対南路線貫く戦略的武器

 急進的な学生団体<韓総連(韓国大学総学生会連合)>の凋落についてはすでに言及した(連載9=9月5日付)。戦闘的であるだけでなく<進歩政党>の行方を左右するしたたかさをもつ<民主労総>、教育現場を洗脳の場とする<全教組>もともに退潮傾向にある。

 先の総選挙で統合進歩党が13議席に躍進したとはいえ、そのうちの7人が《主思派》と言ってよく、これは水中でもがいていた《主思派》が息を吸うために浮上したことを意味する。裏家業が表舞台に立ったらお仕舞いだ。

 しかし、それでもなお、北韓は自分たちが二つの強力な戦略的武器を手にしていると信じているはずだ。それこそが自らの起死回生へ一縷の望みを託せるものだとも。一つは、開発に成功しつつあると見られる核兵器。もう一つは、韓国の各界各層に根付いた《従北勢力》であり、その中核となる《主思派》の存在だ。

 核兵器は対米交渉打開のための主たる手段とされる。だが、その放棄に向けた国際的な圧力がゆるむことはなく、まかり間違っても実戦配備を許すことはあり得ない。韓国にとってより問題なのは、《従北勢力》と《主思派》であり、それを支える親北・反米の左派的情緒が広く沈殿していることだ。

 《従北勢力》は破綻国家である北韓が、国力や国際的な信頼度で圧倒的な優位に立つ韓国を揺さぶり、対等もしくはそれ以上の駆け引きを可能にするまたとない武器になってきた。打てば響く関係にあるのだ。今後も当分はそうあり続けよう。

 北韓独裁に忠実な《主思派》の能力と《従北勢力》の力量は、北韓が多くの犠牲や危険を冒してまで工作員を南派し、<現地指導>する必要がないほどのレベルでなお、維持されていると見なければならない。

(文中・敬称略)

(2012.9.19 民団新聞)
 

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