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サラム賛歌<12>韓国教育の未来を憂う
「代案学校」理事長13年
張 碩さん


 この蒸し暑い季節に、さらにかっとするようなニュースが流れた。羅享旭教育部政策企画官の、「民衆は犬か豚のようなもの」「身分制度を固めるべき」という暴言だ。

 張碩さん(59)は、苦い顔で頭を振った。1%のエリートがこの社会をリードしているという選民意識。それを口にしたのが、他でもない国の教育をつかさどる官僚だとは……、と。

 張さんは、中高一貫の「代案学校」である学校法人以友学園の理事長を、13年間務めた人だ。代案学校というのは、既成の学校に適応できない生徒を救済するため、あるいは既成の教育システムにとらわれない教育を行う機関として、1990年代の半ばごろから始まった試みだ。

 代案学校の中には宗教団体の運営するものもあるが、以友学園の場合は、この国の未来を憂う教育関係者や個人が中心となって、学校設立の準備を進めた。 辺地に寄宿舎付きの学校を建てるのではなく、自宅通学を原則にして、都市近郊に学校を構えた。教育とは、生徒、先生、そして親が共に担っていくものだという趣旨だ。学校のモットーは「21世紀、共に生きる暮らし」。

 03年に開校し、初めての卒業生を世に送り出して、今年で10年目。中学は20人定員のクラスが各学年に3組、高校は各学年が4クラス。少人数で、注入式ではない、対話を主体とした自律的な教育システムをとる。生徒たちを学院(塾)には通わせず、放課後は課外活動が活発だ。

 実は私は、韓国は民主化闘争の時代を経て、社会のシステムも民主化したのだろうと考えてきた。ところが張さんは、そうではないと否定した。むしろ民主化勢力は、87年の民主化宣言に安堵してしまって、その後の戦いを怠った。その結果、経済も教育も、民主化が成し遂げらなかったのだと言う。

 そんな現実を突き付けられたのが、冒頭で紹介した暴言だろう。エリート教育を受けた少数が高級官僚となり、国のシステムを動かしているのだ。結局、この暴言が引き金となって、羅企画官は退陣したのだが、それでもシステム自体が変わるわけではない。

 民主化以降、既存の権威主義に「金=権力」という物質万能主義が結び付いたからだと、張さんは説明する。少数のエリートを選抜するための受験戦争はさらに過熱し、不景気でも私教育は盛況で、親や教師は子どもたちを強く圧迫している。下りたくても下りられないレールの上を、誰もが嫌々歩いている。

 以友学園が提案するのは、そうではない別の道だ。子どもの個性を伸ばし、のびのびと育てたい。では、そんな子が能力を発揮していける社会は、どうすれば作っていけるだろうか。大勢の仲間と共に学校作りに奔走し、運営に邁進してきた張さんは、今、未来について仲間とよく討論するのだと言う。

 「私や子どもたちが良い社会で生きていけるように、善き未来を作るためのビジョンを持ちたいのです」。

 張さんの話を聞きながら、10年後、20年後の韓国の姿を思い描いてみたい。教育こそ、国の未来をかけた試みだ。子どもたちの持つ力を信じて、未来のこの国に期待をかけたい。

戸田郁子(作家)

(2016.7.27 民団新聞)
 
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