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花絹<14> ホンマ言葉がなくても

 鄭貞元さんが上野民団支部を訪れたのは、10年程前でした。鄭さんは30代前半くらいだったかしら。事務所の控え室で、しっとりと座っていました。

 訪れる人ごとに笑顔で会釈します。傍らでは、両手で長鼓を抱き寄せるようにして座っている人が。ええ山本さんなんです、満面どや顔で。

 長い韓国での活動から色んな人との交流が生まれ、人脈を作ったようですよ。彼女はその内の一人なんです。遙々ソウルから山本さんが招いたのね。今宵は、彼女が唱い舞うミニリサイタルが開かれます。誰もが期待感で一杯でした。

 当日の写真があります。鳳凰や牡丹を描いた韓国の屏風を背にして、彼女が何か話かけているわ。色白で額が広く、少し首を傾けながら。薄紫のチョゴリに真白なチマ、片膝を立ててとても優雅ね。ノリゲが揺れます。事務所は人で一杯。

 やがて長鼓を打ちながら唱い始めます。内容が理解できたのは、どれ程だったでしょうか。折角のソウルからの舞姫のショーなのに悔しい! 残念、勿体ない! けれど民俗独特の美しい響き、こぶしの効いた歌いまわしや舞は、誰が観ても時めいたはずね。あっという間にショーは終わってしまいました。

 翌日、山本さんはソウルに戻る彼女を送っていくのですが、ついでだから一緒に行こうと以前から話していました。

 関空行きのバスに乗って、空港に続く青空を眺めるのもホント久しぶり。鄭さんは、空港でもどこでも韓服姿で人目を引きます。妹さんが同行していて、山本さんがしきりに気を遣います。

 二人の会話は終始、日本語と韓国語です。妹さんと話すときも同じね。3人ともよう話が通じるもんやなあ。人間同士のお付き合いってのは、時に言葉がない方がホンマが伝わるんかもネ。他の生き物は言葉がなくても敵を見極めたり求婚したり、母子の深い情を交わすんやから。これ、ありでしょ。

 ソウルでは、鄭さんが営む郷土料理のお店に伺いました。こじんまりとして、清潔なお店です。老いたお母様と暮らしているようです。

 山本さんは海鮮鍋とマッコリをオーダーです。飲めるンやねえ。知らんかったわ。私は全く飲めないのに、うっすら赤くお酒には見えなくて、好奇心でつい手を伸ばします。思いのほか優しく上品な甘さです。ソウルの街を酔いながら、ふらり歩くってチョイトいい気分よ。

 鄭さんは今、通信大学で日本文化を学んでいるんですって。今も韓服で、ソウルの街角を歩いているのかしら。そんな姿も想像しては、彼方を流れる行方知れない雲を追ってみるのです。

李正子(歌人)

(2011.11.16 民団新聞)
 

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