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サラム賛歌<25>日中交流 「歴史」背負って
延辺に根をおろす
小林恒夫さん


 中国吉林省にある延辺朝鮮族自治州。小林恒夫さん(72)は、その州都である延吉市で活動して、今年で13年目になる。

 長らく延辺大学で日本語を教えながら、「ふれあいの場」という日中の民間交流センターの運営に関わってきた。中国の学生たちに日本文化の体験などを通じて、民間の国際交流へとつなげていくことが目的だ。 4年前に延辺大学を定年退職した後も、「延辺ふれあいの場」での活動を続けながら、日本語の教育にも関わっている。

 小林さんの趣味は登山だ。数年前に地元の登山クラブに所属して以来、零下20度の延辺の冬にも、山に出かける。山仲間と共に美しい自然に触れて、感動を共有するのが楽しみなのだ。春、夏、秋には山菜採りの楽しみがある。冬山の厳しい自然を体験すれば、「生命力が蘇ってくる」と、小林さんは言う。

 野菜や豆腐を主とした食事と、山歩きで鍛えた体力。若い学生に日本語を教え、ボランティアで社会活動に積極的に関わることが、まさに小林さんの活力の源となっている。

 小林さんは以前、里帰りする学生と一緒に、旧満洲のソ満国境に近い町を訪ねたことがあった。捨て置かれた、日本軍基地の痕跡を見たかったからだ。

 汽車に揺られながら、その学生と日本語で話をしていたら、見知らぬ中国人から延々とからまれた。相手は、小林さんが日本人だからという理由で、憎しみをぶつけて来た。ところが学生の祖父は、日本語を懐かしがって、満洲国の国歌まで歌った。過ぎた歴史を目の前に突きつけられた、強烈な体験だった。

 この10年余り、日中関係には幾度も、さまざまな問題が起こった。中国に住んでいると、日本国の代表でもないのに、日本に対する怒りをぶつけられることもある。「互いに憎しみを募らせるような愛国主義は、間違っている」と、小林さんは考えている。

 延辺は、中国の少数民族の一つである、朝鮮族が多く住む地域だ。登山仲間にも、朝鮮族が多い。そんな環境も、小林さんをこの地に留まらせている理由だ。 マイノリティーの生活している地域は、大国や覇権者たちの不正を知り、かつ人間が本来持っている力を発揮できる場所だと考えるからだ。

 山登りも、そうだ。自然の中で油断すれば、事故が起きることもある。常に自分の生きる力を訓練しておかないと、退化するというのが、小林さんの持論だ。延辺は、小林さん自身を鍛えてくれる場所でもある。 旧満洲の地を旅をして、「侵略者」「加害者」としての日本の姿を直視することも、小林さんが自身に課す課題の一つだ。これまで数多くの、関東軍の軍事施設や、中国人が惨殺された万人坑などを回ってきた。これからも目を見開いて、近現代の歴史を掘り起こす作業を行うつもりだ。

 辺境にありながら、小林さんは常に、世界を見つめている。経済論理で動かされている社会。その一つ一つがつながって、形成されている世界。それは決して自分と無関係ではない。はるか遠くの大地震が、津波となって我が身を襲うかもしれない。地にどっしりと足をつけて、翻弄されないように生きたいと、小林さんは考えている。

戸田郁子(作家)

(2017.2.8 民団新聞)
 
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