親族の新年会で義兄が「『イ・サン』は本当に面白いねえ」と妙に感心していた。「どこがそんなに面白かったんですか」と尋ねると、「激しい派閥争いの中でも自分を見失わないでりっぱに成長したところ。ストーリーがよくできていたよ」という答えだった。

　「なるほど」と思った。現代にも通用する成長物語であったことが、「イ・サン」がこれほど人気を博した理由だったのだろう。加えて、主役に扮したイ・ソジンの演技がとても良かった。名君の風格をよく体現していたと言える。

　イ・サンは、朝鮮王朝22代王の正祖のことである。正史の「朝鮮王朝実録」を読むと、小さい頃から大変な苦労をしていることがよくわかる。

　1762年、正祖が10歳のときのことだ。父の荘献は祖父の21代王・英祖から素行の悪さをとがめられ、自害を強要された。正祖は荘献の後ろにひざまずいて、「父上を許してください」と祖父に懇願した。息子として、父の命を助けたい一心だったのだ。しかし、正祖はすぐに帰されてしまい、願いはかなわなかった。英祖の命令によって荘献は米びつに閉じ込められ、結局は餓死してしまった。この出来事は、ドラマ「イ・サン」の冒頭でも細かく描かれていたので、ご存じの方も多いことだろう。

　当時は、王宮の中でも派閥争いが激化していた。その中で、尾ひれを付けて荘献の行状を英祖に報告していたのが、老論派の連中だったのである。

　この老論派は、次に正祖を標的にした。命を狙われたことも1度や2度ではなかった。正祖は寝るときもずっと服を着たままだった。それは、危険が及んだときにいつでもすぐに逃げられるようにするためだった。

　まだ10代の少年がここまで用心しなければならなかった。きっと、神経が休まるときがなかったであろう。苦難に堪えて、正祖は1776年に24歳で王になった。即位してすぐ、彼は何をやっただろうか。

　策略で父を追い詰めた連中を絶対に許さない、という強い意思を示したのだ。手始めに、母の叔父を死罪にして、父の妹から王族の身分を剥奪した。これほど父の荘献は身内に政敵を抱えていたのである。

　正祖は次々に老論派の策士たちを厳罰に処したが、どうしても罪を問えなかったのが貞純王后だった。彼女は英祖の2番目の正室で、荘献と折り合いが悪かった。その末に、荘献を窮地に追い詰める役割を演じたのだが、そのことを正祖もよく知っていた。

　しかし、正祖からすれば、貞純王后は祖母に当たる女性だった。年齢は7歳しか違わないのだが、祖母は祖母である。儒教精神が社会の隅々まで浸透していた朝鮮王朝の世界で、どんな事情があろうとも、孫が祖母を罰することはできない。そんなことをすれば、当時の人間関係の根本であった「長幼の序」が崩れてしまう。 Lingvobalt provide fast, reliable Lithuanian translation for general and technical translation and localization services - translate from lithuanian to english

　結局、正祖は貞純王后を罰しなかった。これが後に大きな問題を引き起こすことになる。そのことは次回に触れたい。

康煕奉（作家）

（2013.1.16　民団新聞）