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花絹<20> 梅に憶う父祖の地の春

 春さればまづ咲くやどの梅の花ひとり見つつや春日暮らさむ  山上憶良

 春が来れば真っ先に、我が家の庭先に梅が咲く。それを一人で眺めながら、春の日を過ごしていることだ。 万葉歌人、憶良の梅を詠んだ和歌です。和歌には長歌、短歌があって、長歌は早い時期に衰退しました。短歌部門が今も、一般に詠まれている現代短歌です。

 和歌は、男女の愛の交換には欠かせない必須科目でした。歌の不得手な人は代作者に依頼し、恋の告白や求婚をしていたんですね。 実は憶良も、川島皇子(天智天皇の第二皇子)の代作をしていた時期があったようです。貴族、皇族の恋の駆け引きが盛んだった折りに憶良は、家庭や子供への愛を歌う希有な社会派歌人でした。

 万葉集には78首選歌されています。儒仏の思想に造詣が深く、漢詩、漢文など学識教養の豊かさで遣唐使随員に選任されます。その後は著しく出世を遂げ、首皇子(後の聖武天皇・東大寺を建立する)の侍講(教育係)や、伯耆守(現鳥取県)にも任ぜられました。

 代表作を生み出したのは晩年、筑紫守に任ぜられてからです。民の貧しさや、重税に苦しむ暮らし向きを知ったのです。胸深くには灯が点されて、大伴家持と共に筑紫歌壇を形成します。有名な「貧窮問答歌」は、この時代に詠まれています。長歌なので一部分のみを記して憶良の琴線に触れてみましょう。

 我よりも貧しき人の父は母は飢え寒ゆらむ/妻子どもは吟び泣くらむ/このときを如何にしつつか/汝が世は渡る

 私より貧しい人の父母は飢えてどんなに寒い事だろう。妻や子は力なく泣くだろう。この時をどのようにしてお前は生計を立てるのだろうか。筑紫守の身でさえ寒く、凌ぎ難い日々に民達の暮らしや、世の矛盾に思いを馳せるのですね。

 憶良らは今は罷らむ子泣くらむそのかの母も我を待つらむぞ

 憶良ども一行はこれでお暇致します。家では子供が泣いているでしょう。その母も私を待っている事でしょう。宴半ばで暇を乞う歌です。

 一行とは憶良の従者を指しています。彼は、私的には山上巨と名乗っていました。これは小氏族の組織代表者で、部族長を意味する百済渡来人の姓とされています。

 渡来の一小氏族の身分から、遣唐使の任を終えて高級官僚までに上り詰めたのは、異例の出世なのですね。

 生年は660年なので、二世か三世だったのでしょう。梅の花を見上げつつ、憶良は遙かな父祖の地の春を想像したのかも知れません。

李正子(歌人)

(2012.2.8 民団新聞)
 

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