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新しい地平切り拓く若手在日同胞<金正和>
 在日韓国人の減少が進む一方で、本名で活躍をしている3世も台頭してきている。アイデンティティーに葛藤しながらも、主体的に在日らしさを前面に出している学者と報道関係者に、在日同胞社会と若い世代へのメッセージを寄稿していただいた。

みんなは、みんなのために
互助的介護ボランティアのすすめ


金正和 職業能力開発総合大学校準教授

 私たち在日韓国人にとって、高齢者介護対策はまだまだ万全とは言えず、年を追うごとにその必要性が増大していると思われます。

 昔のように、祖父母と共に暮らす大家族制は、在日社会の中であっても崩れつつあります。核家族化が進んだこともその一因かと思われます。

 このような状況は、在日社会だけでなく、私たちが暮らす日本全国でも同じような状態です。

 日本の高齢者施設の整備は高齢者の急速な増加に追いついておらず、2014年の時点で52万人以上の特別養護老人ホーム(以下、特養)の待機者を生み出しています。特養はまだまだ必要なわけです。

 しかしながら、財政難からか日本政府は在宅介護を推奨しています。ところが、核家族化が進み、老夫婦のみの世帯および高齢者一人暮らしの世帯が急増し、全世帯の54・1%(高齢社会白書、平成24年度版)を占めるような状況です。つまり、半数以上の世帯が高齢者のみで暮らしているわけです。これでは一体誰が自宅で介護をすることになるのでしょうか。核家族化で自宅で子供ら世帯と一緒に暮らしていない以上、家族による介護は困難というのが現状です。

 また、高齢者施設が増設されても、介護の仕事は平均賃金が低く、しかも重労働で短期間でやめるなど、介護スタッフ不足の深刻さもさらに増すことが予想されます。この手詰まり感は誰も否めない状態です。

 一方、海外の動向として北欧での例を見てみますと、スウェーデンでは高齢者介護の責任は国が担っており、その業務は訓練を受けた資格を持つ公務員が行うことになっています。しかし、近年は全国にボランティアセンターを設置するなどボランティアを活用しようとしています。

 また、デンマークでは介護ボランティアが限定的ではあるが存在しています。話し相手や庭の手入れ、買い物代行などを行っていますが、調理、掃除、病院への送迎などは行わないようです。これは、公務員であるヘルパーの仕事を奪い、失業者を生むことがないよう、制限が設けられているからです。

 しかし、公務員ヘルパーは労働時間に制限があるため、利用者には、時間的融通の利く介護ボランティアが歓迎されているようです。

 日本でも高齢者を介護ボランティアとして活用し、介護の労働力不足を補うことは可能と思われます。元気なうちは介護ボランティアを行い、いつの日か自身に介護が必要になった時は、介護ボランティアにお願いするという循環型助け合いである「互助的介護ボランティア」です。この介護方式を導入すれば、介護の制度やしくみが改められるかもしれません。つまり、「互助的介護ボランティア」を活用すれば、気心の知れた在日同士が助け合うことになり、老後や介護の不安が解消されることにつながると考えられます。

 そして、介護ボランティアを行えば、ポイントを得ることができ、高齢者施設に優先的に入居できたり介護が必要になった際に利用できたりといった特典を付与することが考えられます。老後に不安を抱く人にとって、やりがいのあるボランティアになると思われます。これを活用すれば、日本全国どこにおいても地域の人と人が助け合うことになり、持続可能なコミュニティづくりにつながると考えています。

 ところで、介護保険制度では介護は身体介護と生活援助とに分類されており、身体介護は排泄や入浴、食事介助などであり、生活援助は掃除、洗濯、配膳などです。そこで、介護のなかでも比較的誰もが普段の生活で行っている生活援助を介護ボランティアが担うことになれば状況は変わるのではないかと考え、実際にボランティアを活用している高齢者施設で調査を行いました。その結果、生活援助について介護ボランティアを活用するとスタッフの仕事量が軽減され、介護に効果があることがわかりました。

 介護ボランティアにより人材不足が解消され、高齢者施設の運営や経営が安定することで、施設の増設が可能となれば、高齢者は老老介護による在宅介護から開放され、施設に入居できることにつながると考えられます。

 施設に勤める介護スタッフは重労働が軽減され、しかも給与増で生活が安定し、短期離職もなくなるのではないかと思われます。

 高齢社会は日本が未だかつて経験したことがない域に突入しようとしており、介護、福祉、医療、経済、法律、建築など各専門分野が垣根を越え、協働すべきだと思います。

 そして、介護サービスを横断型にデザインすることで、これまでの制度(法律)や地域コミュニティ(社会)、施設(建築)など幅広い分野における事象を見直すことができ、「互助的介護ボランティア」は前例のない高齢社会の健全な発展に寄与できるのではないかと私は考えています。


 1960年、神戸市長田区生まれ。筑波大学大学院卒、博士(デザイン学)、一級建築士。アーキスケープ研究所設立代表を経て、現在職業能力開発総合大学校准教授

(2018.01.01 民団新聞)

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