地方本部 HP 記事検索
特集 | 社会・地域 | 同胞生活 | 本国関係 | スポーツ | 韓国エンタメ | 文化・芸能 | 生活相談Q&A | 本部・支部
Home > ニュース > コラム
龍飛御天歌-朝鮮王朝の世界<24>大海を知ったばかりに

 朝鮮王朝の歴代王の中には、毒殺されたのではないかと推定されている王が何人もいる。その一方で、毒殺に関わったのではないかと疑われている王もいる。それが、16代王の仁祖である。

 1623年、仁祖は15代王・光海君を王宮から追放して王位に就いた。クーデターを成功させた豪胆な男であったはずなのに、王になってからは凡庸さが目立った。出来のよい王とは言えなかったのである。

 外交でも失敗して、清の大軍に攻められた。1637年には、都を流れる漢江のほとりで、清の皇帝の前にひざまずいて謝罪している。これほどの屈辱を受けた王は、朝鮮王朝では他にいなかったのではないだろうか。 謝罪だけでは済まされず、莫大な賠償金を課せられ、3人の息子たちは人質にとられた。清の首都の瀋陽に連れて行かれたのだ。その1人である長男の昭顕は世子(王の後継者)で、妻の姜氏も一緒だった。

 清は面倒見が悪く、「勝手にここで暮らしていけ」という態度だったが、昭顕と姜氏は才覚があり、朝鮮人参の商いを成功させた。夫婦ともに人質ではあったが、大国の文化に接し、昭顕が北京に行った際にはヨーロッパの宣教師たちとも交流した。夫婦はキリスト教に触れて、それまでの儒教一辺倒の世界観を大いに広げたのである。「井の中の蛙」が大海を知ったというわけだ。

 息子たちと別れる際に慟哭するほど嘆き悲しんだ仁祖は、昭顕夫婦が憎き清で楽しくやっていることを知って激怒した。

 さらには、昭顕が清と結託して朝鮮王朝の王を代えようとしている、という噂まで伝わってきた。

 1645年、不信感が増幅した仁祖の元に昭顕が帰ってきた。親子の感激的な対面があったものの、すぐに険悪な雰囲気になった。仁祖の前で昭顕が「いかに外国の文化が進んでいるか」「外国から学ぶことがどれだけ重要か」を力説したため、仁祖が激怒して硯を投げつけたのだ。

 親子の不仲が決定的となり、その2カ月後に昭顕は急死してしまう。仁祖によって毒殺されたとか、鍼で殺されたとか、そんな風評が立った。それを裏付けるように、仁祖は昭顕の葬儀を冷遇した。まがりなりにも世子だったのに、まるで末端の王族のような扱いだった。

 亡くなった昭顕には3人の息子がいた。本来、世子が死ぬとその長男が継ぐのが原則なのだが、仁祖は昭顕の弟、つまり自分の次男を王にした。

 さらに、姜氏に「自分を毒殺しようとしていた」と嫌疑をかけて死罪にし、3人の息子を済州島に流してしまった。それほどに、仁祖は昭顕とその家族が憎かったのだ。

 かつて、光海君をクーデターで追放したときに、彼に怨みを持つ人たちから「殺すべきだ」と進言されても仁祖は断った。そんな仁祖が、自分の長男の家族を滅ぼしてしまうのである。王家の正統な後継者であったはずなのに……。

 歴史には不可解なことが多いが、この一件もあまりに不条理だ。

康煕奉(作家)

(2013.2.13 民団新聞)
 

最も多く読まれているニュース
差別禁止条例制定をめざす…在日...
 在日韓国人法曹フォーラム(李宇海会長)は7日、都内のホテルで第6回定時会員総会を開いた。会員21人の出席で成立。17年度の報告があ...
偏見と蔑視に抗って…高麗博物館...
 韓日交流史をテーマとする高麗博物館(東京・新宿区大久保)で企画展「在日韓国・朝鮮人の戦後」が始まった。厳しい偏見と蔑視に負けず、今...
韓商連統合2年、安定軌道に…新...
金光一氏は名誉会長に 一般社団法人在日韓国商工会議所(金光一会長)の第56期定期総会が13日、都内で開かれた。定数156人全員(委任...
その他のコラムニュース
<訪ねてみたい韓国の駅30...
歴史伝える赤レンガ駅舎 赤レンガの駅舎が、行き交う人々を見守っている。 韓国の鉄道の玄関、ソウル駅。1925年に竣工した赤レンガ...
<訪ねてみたい韓国の駅29...
開業100年、世界遺産の玄関 歴史ある古都の玄関には、それにふさわしい風格が備わる。韓国の古都と言えば、新羅の都、慶州だ。その玄...
<訪ねてみたい韓国の駅28...
未来都市のユニークな駅 いかにも未来的な名前のこの駅は、なかなかユニークな存在だ。まず第一に、その立地。ソウルメトロ6号線、空港...

MINDAN All Rights Reserved.