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サラムサラン<36> 詩を愛する国
 なぜ韓国では詩が愛されるのでしょう‐。さる知人から質問を受けた。ソウルの書店で多くの詩集が売られ、地下鉄の構内に名詩が掲げられているのを見て、驚いたという。確かに、日本とは比較にならぬほど、韓国では詩が大切にされる。文の道の端につながる身からすれば、羨ましい限りだ。

 私は10年ほど英国に住んでいたので、クリスマスのプレゼントに詩集を贈るようなことは生活実感として馴染みがあるが、現代日本ではまずありえないこの光景も、韓国でなら可能であろう。 朝鮮王朝時代からこの国は文の国であり、武より文が上に置かれ、詩文を尊ぶ伝統が深い。また植民地時代の末期、韓国語やハングルが日本によって抹殺されようとした歴史を持つことから、国や社会が、民族の言葉の粋としての詩を大切にしている。そもそも、自国の言葉への誇りが、とても強いのだ。

 ただ、このあたりは、国として詩を大切にする事情であって、個々人が詩に寄せる愛情とは少々土俵がずれる。いまだに詩集のベストセラーが誕生するということは、「国策」を超えた人々の詩に寄せる愛が生きているということだ。「光復」後も南北戦争があり、その後の近代化の過程では独裁的な体質を長く引きずるなど、厳しく、暗いことが続いた。その中で、詩は人間性を守る聖域として、人々が慈しんだということもあるだろう。

 或いはまた、「ウリ(我ら)」という概念が強い社会にあって、民族や眷属など、集団では引き取ることのできない個の感情を、詩に込めてきたということもあったかもしれない。

 かつて韓国がベトナム戦争に参戦した頃、従軍する兵士たちの中に、尹東柱ら祖国の詩人の詩集を携行した若者が多くいたという。これなど、詩というものが人間らしさのよすがであることを物語ってあまりある。いくら国や社会が称揚したところで、詩が生きる場は、個としての人間の心なのである。

 小難しい理屈はさておき、話を単純にしてしまうと、韓国人が胸に湛える過剰なほどの情こそが、詩の隆盛の所以かもしれない。演歌のような歌を歌わせても、ヴァイオリンでクラシックの曲を弾かせても、この国の「詩情」は切々と響く。韓国人は情がたっぷりなのである。

 今やIT先進国の韓国だが、デジタル一本槍では、人の心も無機的に乾いてくることはないだろうか。逆に言えば、韓国で詩が健在であり、人々から愛されている限り、この国にとって大切な何かが安泰だと言えそうである。

多胡 吉郎

(2010.11.3 民団新聞)
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