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サラムサラン<39> 懐かしきハルモニの味
 ハルモニの孫、鄭潤玉さんの案内で、福岡から小倉に向かった。目指すは潤玉さん、弟さんが営む焼肉屋である。

 30年ほど前、若き日の私が通ったハルモニの店は、細い路地の奥にあり、「大邱」と店名を記した赤提灯が軒下に吊るされていた。薄暗い路地裏に、赤提灯がぽつんと控えめな灯りを放つさまは、何かとても人生を感じさせる風景だった。

 実は店があった場所を、1年前に訪ねたことがあったが、小さな家々がひしめいていた一角は駐車場に様変わりし、それらしい店を見つけられなかった。ご家族の消息も不明のままだった。

 だが、本コラムの連載を見て潤玉さんが連絡をくれたお陰で、家族や店の消息を知ることになったのである。懐かしの「大邱」は、ハルモニが逝去して後、1度は店を畳んだものの、末孫の学守さんが最近になって復活させたのだった。

 新しい店は2階建て、昭和初期のカフェを思わせるレトロな字で「ホルモン鍋 大邱食堂」の看板が掲げられている。以前の店に比べ、随分立派なたたずまいだ。サムギョプサルやチヂミなど、かつてはなかった韓国料理の多様なメニューが並ぶ。それでも昔懐かしいホルモン鍋が看板料理であることが嬉しい。

 昔と同じ鉄鍋が出てきた。正方形の中央部分を浅く穿ち、そこにホルモンと野菜を山盛りに置く。熱すると野菜から汁が出て、甘辛いタレを溶かしてホルモンを炊きあげる。「私たち家族も、毎日こればかり食べていたんですよ」‐そう言って、潤玉さんは涙ぐんだ。

 店を復活させる時、この鉄鍋の入手が最も難しい課題だったという。ハルモニ時代の特注品なので、どこにも売っていない。幸い、ひとつだけ往時の鉄鍋が残っていて、それをもとに、業者に頼んで復元してもらったそうだ。だいぶ金がかかり、学守さんはバイクを売って資金に当てたという。

 孫のこだわりによって、「大邱」の看板料理が復活した。口に含むと、懐かしい味がひろがった。間違いなく、ハルモニの味だ。他のどこの店にもない絶品、私にとっては青春の味でもある。

 「ここに来ると、ハルモニの魂が生きているような気がするんです」‐潤玉さんがぽつりと口にした。潤玉さんも学守さんも、当時の私よりも既に年齢を重ねている。過ぎた歳月の大きさを思えば、今口にしているホルモンの妙味が、ことさら尊いものに思えてくる。

 「そうだね。本当に、そうだ」‐。懐かしいホルモン炊きに箸を伸ばしながら、私は目頭が熱くなるのを抑えることができなかった。

多胡 吉郎

(2010.12.1 民団新聞)
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