| 紙芝居『オオカミのまゆげ』(教育画劇)のとびら | | 文 イ・ジンスク
絵 ペク・テスン
共訳 星 あキラ
キム・ヨンジョン
出版社 瑞雲舎 |
久しぶりに、トラがでてくるむかし話絵本を紹介しましょう。わたしがこれまでに紹介してきた『とらはらパーティー』(第3回)のトラも、『あずきがゆばあさんとトラ』(第4回)のトラも、弱い者たちにやっつけられてしまう不甲斐ないトラでした。 ほかにも「おどりトラ」や「とらとほしがき」などのお話がありますが、ここに登場するトラたちもあまり恐くなくて、ドジでまぬけなのです。 しかし今回紹介する『しろいまゆげのトラ』は、それらのトラとはまったくちがいます。表紙を見ただけでも想像できるでしょ。 「かっこいい系」のトラなのです。 むかし、深い山奥に千年も生きぬいた、白いまゆ毛のトラがいました。トラには不思議な力があって、白いまゆ毛からでる光にあてると、相手の本当の姿が見えるのでした。 トラは山に人間がやってくるたびに、不思議なまゆ毛をかざします。人間の姿をしているが、本当は泥棒イノシシ、ずるがしこいキツネ、欲張りなタヌキ。トラは人間の本当の姿を見ぬくと、容赦なく飲みこんでしまうのでした。 ところが何年かすると、山にまったく人間がこなくなってしまいます。トラはその原因を探ろうと、白いひげのハラボジに姿を変えて町におりていきました。思っていたとおり。よくないうわさをしています。 「あの山の峠にはトラがいて、心のきれいな者だけを食ってしまうんだ!」 「何てことだ! 悪いトラだ!」 トラがまゆ毛をかざして見てみると、みんな毒ヘビみたいなヤツばかり。 しかしわら帽子の女の子だけは、白いひげのハラボジがトラだと見ぬいてしまうのでした。あわてて山にもどったハラボジ姿のトラは、わら帽子の女の子がこっそりあとをつけていることに気づきません。やがてハラボジが元のトラの姿にもどるや女の子は、トラに向かっていいました。 「人の心のなかが、わかると聞きました。どうかわたしに、その力をさずけてください。人を助けるときに使いたいのです」 「ならばお前の心のなかを見てみよう。悪い動物に見えたらすぐに食ってしまうぞ!」 トラがまゆ毛をかざして見た女の子の姿は……。 実はこのむかし話、日本では「オオカミのまゆ毛」というお話で、東北地方、関西、四国、九州に伝わってきました。 おおよそつぎのような内容です。ある村に貧乏なおじいさんがいました。働けど働けど暮らし向きはよくなりません。ある日、山でオオカミと出会います。ところがオオカミは、おじいさんを食べないのです。 「お前は働き者で正直な真人間だ。いくらオオカミでも真人間は食べない」 そういうとオオカミは、人の本当の姿が見えるまゆ毛をくれます。村に帰ってまゆ毛でかざして見ると、村人はみんな動物ばかり。人はいません。たったひとり人の姿をしていた庄屋さんは、おじいさんを守り神だと思い、家に連れてかえって大事にするのです。 話をもとの絵本にもどしましょう。作者は最後にこう問いかけています。 「さて、ところで君たちの心はきれいかな?」 キム・ファン(絵本作家) (2015.5.13 民団新聞) |