| 文と絵 チェ・ヒャンラン
訳 おおたけきよみ
出版社 岩崎書店
| | 屏風に描かれた十長生図 |
もうすぐ敬老の日です。そこで今回は、ハラボジと孫の心のふれあいを描いた絵本、『十長生をたずねて』を紹介しましょう。 ある日、大好きだったハラボジが病気になってしまいました。孫の女の子が悲しみにくれていると、突然、ツル(鶴)が現れます。ツルは部屋をぐるりと見渡してから、女の子にこういうのでした。 「長生きしたり、病気にならない十のものを『十長生』というの。 むかしの人びとは、家族の健康をいのって、『十長生』のもようで家のなかのものをかざったわ」 ツルがいう「十長生」(シプチャンセン)とは、太陽、松、ツル、シカ(鹿)、不老草(霊芝)、岩、水、カメ(亀)、山、雲のことです。ときには竹や桃がふくまれて、その代わりに何かが抜けることがあります。 韓国の時代劇などを観ていると、王様が座っているイスのうしろにはよく、立派な屏風が立っていますよね。そこに描かれているのは多くの場合、写真のような「十長生図」なのです。 長寿を願う思いが、国父である王様に向けられるのは当然のことです。やがて「十長生」を生活のなかに取り入れることが民衆のなかにも広がり、家具や着物、文房具などに刻むようになっていきました。 今までに「十長生」いう言葉を聞いたことがなくても、韓国の人たちの家にはどこかにありますから、探してみてくださいね。 ツルにいわれて女の子は気づきます。 「じゃあ、『十長生』を集めてもっていくのはどうかしら?」 そう。「十長生」を集めていくのがこの絵本の一番の見どころなのですが、それをただ単に、絵だけで表現していないところがこの絵本のすごさなのです。 詳しく話しましょう。先ほどから登場しているツルは刺しゅうで、シカを集める場面では、らでんを使っています。水を集める場面も「チョガッポ」という、韓国伝統のパッチワークで表現しています。小さな布の切れ端を縫い合わせて作っていく手芸なのですが、そこには命が長くつながりますように、という思いが込められているのですよ。 つまり、ただ絵で描くだけではなく、作者自らがししゅうを刺したり、伝統的な家具から飾りを取りはずして並べたり、実際にパッチワークを縫ったりしたものをコラージュして、それを写真に撮って絵をつくりあげているのです。 わたしはこの絵本を担当した編集者と一緒に本をつくったことがあり、彼女からこの絵本の創作秘話を聞くことができました。 「作家さんは、女の子が山に登って雲を取るシーンを焼き物で表現するのに、一番苦労されていました。焼き物はいくら正確に下絵をつけても、なかなかそのまま焼きあがらないものでしょ。下絵をつけては焼いて、焼き上がりに納得できなくてまた焼いて、何十枚も焼いて、ようやく絵本に使える一枚を得ました」 女の子はついに「十長生」を集めてハラボジに届けます。果たしてハラボジは、健康を取りもどすことができたのでしょうか? その答えは絵本を読んで確かめてください。女の子の心の成長を知ることになるでしょう。 キム・ファン(絵本作家) (2015.9.16 民団新聞) |