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サラムサラン<29> 永遠なれ!「私は17歳」
 小さな港町のカラオケ屋だった。場末の店を、安化粧のような照明が海のように満たしていた。そして始まったその曲‐「私は17歳」という懐メロ。歌うは「プリティ・チョンさん」。掌を振り、腰をくねらしながら、愛嬌たっぷりに調子のよい歌が始まった。

 「私の胸はドキドキよ。教えてあげましょ、17歳なの。青い鳥夢見る柳の下、さあ、こっそりといらっしゃい」‐。

 1994年、NHK=KBSの共同制作で詩人・尹東柱のドキュメンタリーを撮影中のこと。連日のハードなロケで疲労もストレスもピークに達し、ある晩、夕食後に皆でカラオケに繰り出した。「プリティ・チョンさん」を自称する彼女は韓国側の若い通訳だったが、少女の頃から日本で暮らし、東京の高校を出ただけに、日本語の実力はずば抜けていた。

 もっとも、彼女が重宝がられたのは、通訳としての力以上に、ヒマワリのような明るい性格が共同制作の潤滑油となるからだった。お喋りで物怖じせず、喜怒哀楽がはっきりして遠慮がなく、ひやひやさせられることもあったが、人間としての根っこが抜群の善良さなので、私はその人柄を愛した。

 プリティ・チョンさんの18番の歌が、「私は17歳」だった。実際には歌の年をとうに過ぎてはいるのだが、彼女の純真さと愛らしさが、明るく素朴な乙女の歌に合った。移動中のロケバスの中や食事の席でも、アカペラでよく歌ってくれた。

 笑い上戸でもあった。日の出の撮影の段取りについて打ち合わせた際、「アチムへ(朝日)」という言葉を何度も口にするうち、日韓の言葉が混ざって「朝のへ」と言ってしまい、「臭そうだね」と茶々を入れた途端、どっと噴き出して笑い転げ、しばらくは打ち合わせにならなかった。かと思うと、素直な心が感動のあまり、涙となって爆発してしまう時もあった。

 番組も終わり、その後、東京の我が家に一度泊まりがけで遊びに来たことがあったが、それ以来、会っていない。風の便りに、米国のロスに渡り、結婚して子供も産んだと聞いたが、しばらくして別れたとの噂を耳にした。今は韓国か日本か米国か、消息もつかめない。

 歳月とは残酷なものだ。人生はイバラの道だ。それでも、彼女に再会することができたなら、必ずあの歌をリクエストしよう。子連れのおばさんであっても、歌を歌う間は永遠のプリティ・チョンさんだ。いくつになっても、どのような環境に置かれても、彼女の歌が永遠の無垢を奏でるであろうことを、私は今も確信してやまない。

(2010.8.25 民団新聞)
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