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風はるか−ぐるっと韓国歴史紀行<10>海の町の山の寺、梵魚寺
信者を集める釜山の梵魚寺

 地下鉄駅近くのロータリーからバスに乗り松林を上ること10分、寺の入り口に着いた。釜山東莢の名刹、金井山梵魚寺。山門の一柱門、その先の天王門をくぐり奥へ進むにつれ、三方に山が迫り深い緑に包まれる。つい先ほどまで潮の香りが漂う海辺の町にいたことが嘘のようだ。

 梵魚寺という名は、もともと天上界に住む梵天という魚が金色の井戸に降りてきて泳いだという伝説に由来し、山の名は金井山に、寺は梵魚寺と命名されたという。名前の由来はともかく、港町釜山を代表する寺に「魚」のつく寺号はいかにもふさわしい。

 寺の中心部には、大雄殿を挟んで地蔵殿と観音殿がたつ。折しも大雄殿では読経が行われていて、大変な賑わいである。信者たちの9割以上が女性だ。堂内に入りきれず、外から手を合わせる信者もいる。山の寺であっても大都会から近いので、多くの信者たちを集めるのだろう。

 しばらくして読経がやむと、静けさが訪れた。どこからともなく通う風に、大雄殿の軒下に吊るされた風鐸(風鈴)が心地よい響きをたてた。見あげると、小さな青銅製の鐘の風受けの部分が魚の形をしていた。韓国の寺では一般的な姿だが、ここでは特に似つかわしく思える。

 梵魚寺は新羅の高僧・義湘大師によって678年に創建された。もとは倭寇の侵入を防ぐため、仏法により国を守る護国寺院として建てられたという。海が近いことが、国防的な意味を負わせることになる。壬辰倭乱(文禄慶長の役)の際には、西山大師が率いる僧兵たちの司令部が置かれた。

 義湘大師は新羅から唐に留学、10年間学んだ後に帰国、華厳宗の祖として新羅仏教の黄金時代を築く。実はこの義湘、たいそうな美男であったらしい。唐に留学中のこと、善妙という娘が義湘を見初めて恋心を告げた。だが、仏に仕える身ゆえ愛を受け入れるわけにはいかないと義湘は断り、仏法を支えにするよう諭す。善妙の慕情はやみがたく、やがて義湘が修行を終え新羅に戻る時、港を出た船を追って入水し、竜に身を変えて帰国の航路を守ったという。

 この逸話は東アジア全体によく知られたと見え、鎌倉時代の13世紀初、京都の栂尾に高山寺を開いた明恵上人が特に気に入って、「華厳宗祖師絵伝」という絵巻物に描かせた。また善妙寺という尼寺を開き、女人に仏心を説いた。高山寺には義湘を描いた絵巻や善妙神女の彫像が今も残されている。

 山門を出ると、本殿から下りてきた信者たちの群れに出会った。やはり、圧倒的に女性たちが多い。女人に慕われた義湘大師の「伝統」というべきか。梵魚寺での祈りを糧に、女性たちはこれから海の町での忙しい生活に戻るのだろう。釜山の顔ともいえる魚市場・チャガルチ市場で働く女性もいるに違いない。

 義湘大師と善妙の逸話には海が重要な役割を果たしていた。義湘の徳も善妙の愛も、中国から朝鮮(韓国)、日本へと、海を越えて人々の心に広まった。やはり魚の字を戴くこの寺は、山の緑の中にあっても、潮風を運び海につながる寺なのだと感じた。

多胡吉郎(作家)

(2013.10.30 民団新聞)
 

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