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サラム賛歌<4>幸せウイルス伝染させて…
6000人のチメクパーティー
観光客誘致に励む 韓重澤さん

 日本から来た旅行客に「ハンサムなハンさんですか」と声を掛けられると、「はい、そうです」と答えて、記念写真に応じる韓重澤さん(54歳)。フェイスブックを使い、一度聞いたら絶対に忘れないニックネームで、仁川の情報を発信している人だ。

 韓さんの肩書は、国際文化観光協会会長。仁川生まれの仁川育ち。この街が大好きだから、この仕事をしていると胸を張る。アンコウ鍋屋の社長でもある。

 韓さんは韓国の大学で日本語を学び、日本の大学院に進学した。

 「父は中学まで日本語で教育を受けた世代で、私の家には日本の小説や教科書、雑誌などが200冊もありました。高校生だった私は、辞書を引きながら日本の小説を読むのがとても楽しかった。でも父はそんな私をひどく叱って、本を隠してしまいました」

 父は軍人で、韓さんは幼いころから何度も家を引っ越した。そのたびに父は、蔵書を大切に運んだ。しかし「日本語なんか勉強しても、食っていけない」という理由で、父は一人息子が日本語を学ぶことに大反対したと言う。

 父はなぜ日本の本を捨てなかったのか。戦争中、本を買うのが大変な時代だったから、青春の思い出が染みついているのだろう。しかし日本に対する父の思いは、郷愁だけではなかったはず。愛憎入り混じった父の気持ちを、だいぶ後になって韓さんは聞いた。

 「担任の先生が、とても良い人だった。芋をふかして食べていた私たちに、おにぎりを作って食べさせてくれた。日本人は、悪い人ばかりではなかった」

 韓さんは、仁川観光公社の諮問委員を務めている。仁川に観光客を誘致するのが韓さんの仕事だ。この4月、中国から6000人の観光客が仁川を訪れ、月尾島でチキンとビールの大「チメクパーティー」を行ったことが、大きく報道された。韓さんの企画だった。今後も、韓中日学生写真交流展など、大きな企画が待っている。

 「アジアの青少年の文化交流を目指しています。とくに日本は歴史的にも、仁川ととても関連が深いのに、仁川と言えば空港しか知らないという人が多くて、残念。もっとこの街のことを、日本に伝えたい」 仁川に関心を持つ日本人を、韓さんは熱心に案内し、ときには食事やお茶をふるまったりする。そんな韓さんの「おせっかい」に、日本から来た人々は皆、驚く。

 「私が幸せなら、隣の人も幸せになる。幸せは誰かと分かち合うことで、もっと大きくなります。私におごってもらったことを私に返すのではなく、いつかどこかで韓国人に会ったらその人におごってあげてください。その韓国人は次に日本人に会えば、必ず親切にするでしょう。幸せウイルスが伝染していくこと。それこそが民間交流じゃないですか」

 韓さんは東京で過ごした4年間、渋谷の焼肉店でアルバイトをした。親の支援を受けずに自活する韓さんに、在日の主人がバイト代とは別に、毎月2万円の「奨学金」をくれた。韓さんはそれがありがたくて、幾度も泣いた。

 返し切れないほどの恩があると、韓さんは言う。彼の「おせっかい」は、その恩返しのかけらでもあるのだ。

戸田郁子(作家)

(2016.4.20 民団新聞)
 
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