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サラム賛歌<17>同じ空気を吸うことから
彫刻家・神戸芸術NPO「芸術と計画会議」メンバー
JUN TAMBAさん


 「仁川の鉄工所で作品を作って、展示したい」。神戸大学で教える彫刻家のJUN TAMBA(塚脇淳、64歳)さんから、そんな依頼を受けた。探し当てたのは、都市開発からぽつんと取り残されたような場所にある鉄工所だ。

 店のすぐ前には、使われなくなった古い線路があった。植民統治時代の1937年に、仁川と水原を結ぶ狭軌列車が開通し、1977年までは蒸気機関車も走っていたという。そのレールの両脇に、古びた家が密集している。食堂の看板のほとんどが「栄養湯」。街中ではすでに見られなくなった犬鍋の店だ。

 住民の年齢層は高い。家のどこかが壊れたとか、機械が故障したなどの依頼があると、鉄工所の社長は工具を持って出かけて行く。この鉄工所は、地域の住民のたまり場でもある。

 そこを舞台に、8月の暑い時期に半月、10月にも半月、タンバさんは作品作りに励んだ。韓国語も解さず、汗を流しながら制作に励む日本人を、初めは皆が遠巻きに眺めていた。やがて身振り手振りや筆談で対話が始まると、廃材屋のアジョシも、覗きに来たハルモニも、皆が笑顔になった。

 「地域の人と同じ時間を共有し、同じ空気を吸っていることが、ホントに楽しい。もし日本から作品を持って来て展覧会を行うだけだったら、韓国の人々の日常の暮らしは見えなかったはずだ」と、タンバさんは言う。

 1カ月もすると、タンバさんは簡単な韓国語ができるようになった。社長を探しに来た人に向かって「サジャンニ、オプソヨ」と、大きな声で言っている。

 作業場を訪れる人々が、盛んに「タンバ、タンバ」と声をかけている。この人はなんとすごいことをしているのかと、私は感嘆した。アートとは無縁だった人々が、タンバさんのパフォーマンスを見て、心から喜んでいる。古びた鉄工所は、いつの間にかアートの現場になったのだ!

 芸術とは、選ばれた人だけの特権などではない。どんな人でも手で触ったりして、楽しめばいい。しかし、それを身を持って実践して見せることは、決してたやすいことではない。

 作品が出来上がり、わが仁川官洞ギャラリーに展示されると、鉄工所の人々がトラックで見物にやって来た。スポットライトの当たった作品を眺めた鉄工所の社長は、「うちにあったときと、全然違って見えるな」と驚いていた。

 「鉄は硬くて冷たいと思っている人が多いが、実は、熱を加えれば柔らかくてしなやか。しかも手に入りやすい。だから私は30年余り、ずっと鉄を素材に作品を作っている」とタンバさん。

 これまで神戸やロシア、釜山などで、何メートルもある巨大な作品を作ってきたが、仁川では木造の小さなギャラリーに似合った小品を、いくつも作り上げた。

 ごつごつと切り立った、韓国特有の岩肌を連想させる作品もある。三つの山がつながって、一つの大きな連山となるイメージは、韓国・中国・日本がつながることができたら、と願って作った。

 まずは仁川と神戸という、歴史的にも良く似た二つの町をつなげていきたい。タンバさんはそう考えている。

戸田郁子(作家)

(2016.11.9 民団新聞)
 
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