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サラムサラン<25> 英国の海辺の町に

 ロンドンから汽車に乗った。10年間暮らした英国を離れる前に、訪ねたい人があった。李平雨さん。ドーヴァー海峡に面したフェリックスストウという小さな町に住む韓国人である。

 李さんとのご縁は、80年代に韓国で始まった。紡績会社の経営者で、手広くビジネスをしていながら、商売人によくある脂ぎった感じがまるでない。手にはいつも詩や小説、随想など文芸書が握られ、細身でソフトな面立ちと相まって、なんとも格好がよかった。

 英国に渡ったのは、以前から夫人が英国での学校経営を夢とし、フェリックスストウに韓国人子弟が学べる国際学校を設立したことがきっかけだった。しばらくは韓英を往復する生活を続けていたが、ビジネスを引退して以降、夫人の暮らす学校に自らも移り住んだ。 私もロンドンに住んでいた頃には、学校までお邪魔する機会もあったが、文筆を主に田舎暮らしをするようになって以降、足の便の悪さを言い訳に、失礼を重ねてしまった。

 久しぶりの再会の日、李さんは最寄りの駅まで車で迎えに来てくれた。夏休みで夫人は里帰り中とのことだったが、寮に残った韓国人学生の面倒を見て、寮長のような仕事をしていた。

 英国暮らしはどうかと尋ねた。「時間の流れ方が韓国とはまるで違うね。素朴な暮らしの中に、ゆとりがあって、穏やかな日々がある。何につけ、韓国はやかましくて…。ここは自然も豊かだし、人生を深く生きることができる。韓国にいたころには、わからなかったことだ」‐。李さんの答えは、私にも充分に納得のいくものだった。

 賄いのポーランド人夫婦がいたが、彼らに対する李さんのやさしさが印象的だった。朝食の後、李さんが誘って、男3人で港のカフェにコーヒーを飲みに出かけた。港といっても、ヨットが停留する桟橋程度の小さなものである。

 ポーランド男に、李さんは一生懸命に話す。今度ゴルフに一緒に行こうと、何度も誘った。流暢な英語ではなかったが、誠実さが溢れていた。ポーランド人からも慕われている様子が伺われた。

 私がこれからは日本をベースにすると言うと、ならば韓国と英国で3分の1ずつ暮らすようにと勧めた。外国に身を置くことの貴重さを知る人の発言だと思った。

 実のところ、韓国に残る李さんの知人たちは、異郷に暮らす友が淋しい思いをしているのではないかと案じている。確かに、孤独はある。だが、故郷から離れたその孤独の中に、李さんは人生の深い価値を見出そうとしているのだ。

多胡 吉郎

(2010.6.23 民団新聞)
 

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