銀座通りなど、両側にはぎっしりと露店が立ち並びます。烏賊焼き、林檎飴、お好み焼き。いい匂いね。あら、チヂミのお店があるわ。 威勢のいいお兄さんが焼いています。上野天神秋祭りホコテンの風景です。 先ず、百体の鬼行列が通りを練り歩きます。全国的にもこれは珍しく、国の無形文化財に指定されています。花形は九基の楼車巡行です。児玉町の小蓑山楼車には、清道旗を掲げた朝鮮通信使を描いた幔幕が披露されます。400年程前のこれは韓流ブームですね。 津市の秋祭りには唐人踊りが繰り出します。とんがり帽子に仮面を付けて、虎や豹柄のパジを穿き神楽を舞い、雅楽を奏でます。 鈴鹿市では、唐人踊りの他に、山車の幔幕に通信使の絵図が描かれています。「朝鮮通信使行列図染絵幔幕」です。 鈴鹿市の絵図には「波に鼓図」が描かれ、これは類例がなく、大変珍しい貴重な図柄です。江戸で制作されているんです。 それを知ったのは2年前に、勝速日神社春季祭礼に出かけた折りです。丁度、山車の後片付けをしている町の男衆から聞きました。 何でも町内会会長さんが14年前に発見した胴幕、それが朝鮮通信使絵図でした。誰もが知らずに、足で踏んでいたんですって。 通信使一行を観る為に、おそらく東海道沿いに見物に出かけたのでしょう。そして口コミで多分野に広まったと思われます。鎖国化の日本で、人々の大いなる関心を集めていたのね。 お礼もそこそこに会長さんを訪ねると、花の水遣りの最中です。幔幕は現在、県無形文化財に指定されていて、鈴鹿市考古学博物館が保管しています。発見後に両市は、故辛基秀さんに鑑定を依頼し初めて全容が解ったのです。 8月には市役所で公開されるので、会長さんに予約をお願いしました。 公開日の見学者は70人程で、会長さんもご一緒です。全長7メートルの幕は、始めの3メートルだけが見学を許可されます。マスクを掛けて僅か5分ですよ。 相当傷んでいて幾つか穴が開き、眺めるにも気を遣います。修復費に500万円は掛かるため、財政的に困難だそうですが。 釜山から日光迄の半年に及ぶ長い道中では、財政に関わる逸話が色々あります。 伊勢亀山城石川藩では、接待役を数回務めて金庫が逼迫したそうです。幕府なら相当なものだったでしょうね。 灯りを点した楼車の通信使たちはしかし、そんな経緯に関わりなく晴れやかな情緒を醸し出します。城下町の秋が終わろうとしていました。 李正子(歌人) (2011.11.23 民団新聞) |