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風はるか−ぐるっと韓国歴史紀行<25>白村江・古戦場の幻影 群山
群山、錦江(白馬江)の河口

 660年、百済は滅亡した。だが、一朝にしてすべてが消えたわけではなかった。武将・鬼室福信を筆頭に百済の遺臣たちは各地で抗戦を続け、国の再興に奔走した。

 義慈王は唐に連行され世を去ったが、祖国復興には王統が必要となる。そこで目をつけたのが、20年近くも倭国に暮らしていた百済の太子、豊璋であった。遺臣たちは豊璋の帰国と援軍の派遣を倭国に要請する。

 倭国の実権者、中大兄皇子は百済復興支援を決定する。豊璋を百済王に封じ、親衛軍をつけて本国に送還した。豊璋は鬼室福信に合流し、ともに周留城に入った。こうして最終的には5万近くの倭軍が海を越え、新羅・唐の連合軍との決戦に臨むことになった。663年、白村江の戦いである。

 百済巡りの旅の最後に、どうしても白村江の古戦場を見てみたかった。常識的に考えれば、その場所は百済の都であった公州や扶余に通じる錦江(白馬江)の河口になる。錦江が海に注ぐ際にある群山という港町を目指した。

 が、結論的に言うと、当てが外れてしまった。群山で語られる古の戦いの記憶といえば、高麗末、錦江河口に押し寄せた倭寇の大船団を崔茂宣の発明した火薬を使った砲撃で撃滅した鎮浦大捷(大勝利)であって、白村江の戦いについてはどこにも説明がない。港には鎮浦海洋テーマ公園があり、そこには軍艦を改造した博物館もあるが、この展示も鎮浦大捷が中心で白村江は完全にスルーだ。滔々たる水面を眺めながら、狐につままれたような気持ちだった。

 白村江の戦いを前に、百済復興軍に乱れが生じる。王と武将の間で対立が激化し、豊璋は福信を殺してしまう。混乱を乗り越え倭国から大軍が派遣されたが、倭船は突撃を繰り返すばかりで待ち構えた唐の水軍の餌食となり、倭船400艘が炎上、海の藻屑と消えた。倭軍は大敗を喫し、川は戦死者の血で真っ赤に染まったという。

 豊璋の帰還以来、百済支援の倭軍の中心に秦田来津という人物がいたが、奮戦やむなく敗戦を悟るや、唐兵の首を両脇に挟み込んだまま水中に身を投じた。その名から渡来系であったことは明らかだが、百済復興にかけた気持ちはひとしおだった筈だ。無念の死であったことだろう。

 百済復興の夢は完全に潰えた。豊璋は命からがら高句麗に逃亡、祖国を追われた多くの百済の遺臣たちが倭国に渡った。倭国は対外戦略の見直しを迫られ、内向きの充実を図って律令制を整備する。

 しばらくは水面を眺め続けた。河口が湛える水はどんよりと無表情で、何も語りかけてはくれない。この川底を調査すれば、まずは崔茂宣の大砲に撃沈された倭寇船の遺物が出て来るだろう。そしてその下には、新羅・唐に破れた倭軍の船団が眠っている筈なのだ…。

 消化不良の気分のままソウルに向かうバスに乗った。高速道路に入り北上を始めて間もなく、錦江をまたぐ大きな橋を渡った。川は夕陽を浴びて赤々と輝き、てらてらと妖しい光を発していた。水底に眠っていた白村江の亡者たちの魂が、にわかにあぶり出されたかのようだった。

多胡吉郎(作家)

(2014.4.23 民団新聞)
 

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