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サラムサラン<最終回> 詩人・尹東柱のDNA
 1995年に尹東柱の番組を手がけたことで、詩人のご遺族とのつながりができた。今も、おふたりのご遺族とお付き合いがある。

 そのうちのひとり、オ・インギョンさんは、詩人の妹、尹恵媛氏のご息女で、年は私よりふたつ上になるが、まるで童話から抜け出てきたように純真無垢な方である。

 この人が声を荒げる場面に出くわしたことがない。常に笑みを絶やさず、控えめな態度に終始する。返事をなさる際、細い声で「ネ〜」と仰られる、その響きにも、清らな風がそよぎ立つ。

 牧師であるご主人がこの夏、オーストラリアで交通事故に遭い、救急車で運ばれて手術を受けた。命に関わる大事故だったという。だがインギョンさんは、「大変なご心痛でしたでしょう」という私の言に乗じて、大仰に慨嘆することをしなかった。事故に遭った不運を嘆くより、九死に一生を得たことを神に感謝する気持ちを大事にされているのだった。

 もうひとりのご遺族は、詩人の弟、尹一柱さんのご子息、尹仁石さんである。成均館大学建築学科の教授で、私とは同い年になる。この方も実に穏やかで、静かな微笑の似合う方だ。物腰にも言葉遣いにも、悠揚迫らぬ気品が溢れている。

 同志社大学にある詩碑の前で行われた尹東柱の追悼式に列席された際、隣にたつ鄭芝溶の詩碑にも、さりげなく花を置かれた仁石さんである。忙しい予定を縫って、尹東柱の詩を日本にいち早く紹介した詩人・茨木のり子さんの墓参りに出かけた仁石さんなのである。遥か山形県鶴岡市までの往復である。陰徳がきらりと光る。

 オ・インギョンさんにしても尹仁石さんにしても、尹東柱の詩世界といかにも響き合う所業が多い。詩人の血を間違いなく引いている。

 詩人本人は、日本の敗戦の半年前に、福岡刑務所で獄死した。無念の夭折に対して、怒りがないわけはなかろう。だが、おふたりは怒りを決して外に向けず、自分を静かに見つめることで、精神をひとつ高い次元に結ぼうとする。峠を越えたところに、おのずと静かな微笑が輝き出す。

 尹東柱もまた、生前の写真を見れば、静かな微笑を湛えた姿が多い。凛とした、目元涼しき微笑である。精神の高さがおのずと伺われる、美しい微笑だ。

 韓国に通い、韓国語を学ぶなかで出会った珠玉の宝物のような尹東柱の詩世界。そのDNAを引くおふたりは、若き日以来の隣国との長き縁(えにし)が結びもたらしてくれた、「サラム・サラン(人は愛)」の精華に違いない。

多胡 吉郎

(2010.12.22 民団新聞)
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