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サラム賛歌<16>日本情報の行きかう場
ブックカフェ「大邱ハル」
朴承柱さん


 大邱の中央路駅辺りに、古い住宅街がある。市では1960年までに建てられた近代建築の修復に、支援金を出して保護している。

 ハンドメイドの靴屋の並ぶ路地を歩いて「大邱ハル」に着いた。近代建築を改装したブックカフェだ。

 「日本からやって来る観光客に情報を提供するビジターセンターを作ろうと考えていましたが、いつの間にかこの形になりました」と、朴承柱さん(48)は笑う。流暢な日本語は、7年間の日本暮らしで身についたもの。名古屋大学大学院国際言語文化研究科の博士課程で、日本文学を研究した。

 故郷の大邱に戻った朴さんは、地元の大学で教え始めた。そしてかつて大邱に住んだ日本人の遺した資料などを読む勉強会を、6年前に始めた。日本から大邱に来た留学生も加わった。 日本語ができても、町の歴史を知らなければ、中身を深く読み取ることはできない。郷土史を研究する人々や、町おこしのメンバーにも声をかけて、一緒に勉強会を行うようになった。

 勉強会は、日本式住宅をリノベーションした「三徳商会」や「工具博物館」などを転々とした。酒席で「だれかこの辺に、勉強部屋を作ってよ」という声が挙がった。朴さんがふと、自分がやってみようかと言うと、皆が彼女の背中を押した。

 家探しを始めたのは2012年の終わりごろ。物件に出会うまでの紆余曲折を経て、改築に丸1年をかけ昨年2月にオープンした。

 「韓国語と日本語の両方で通じる、パッチムのない発音しやすい名前を付けました。ハルは春。韓国語では一日。毎日を、春のようなステキな気持ちで過ごしてほしい。一日が始まる希望のハル、という意味もこめています」

 「どれも、自分一人の力では、決してできなかったこと。良き縁、良き仲間がいたからこそ」と、朴さんは言う。

 本棚には、日本書籍がずらりと並ぶ。大邱在住の日本から来た人々がここに集まるようになり、日本の情報を知りたい韓国人もやって来て、情報交換や学びの場ともなった。地域の歴史を掘り起こす勉強会も、定期的に行っている。

 日本文化を知りたい大邱の人は、これまでは釜山の日本総領事館を訪ねていたが、「大邱ハル」ができて、とても便利になったと喜ぶ。大邱市内の中高生が、日本文化を体験するために訪れるようにもなった。学生たちは、絵手紙や折り紙を習ったり、茶道教室も体験する。たこ焼き作りにも挑戦する。日本語や日本文学、和菓子作りなどの講座もある。催しや講座は、「大邱ハル」を支える日本のメンバーが担当している。

 「お互いに経験していないから、互いを嫌うのではないでしょうか。会ってみればひかれあう部分もある。だから交流が必要です。私はそれをやっていきたい」

 「空間の力はすごいと思います。この場所がなければ、一生出会えない人もたくさんいたはずだから」

 地元に根差して、日本通の集まる専門機関として認識されたい。日本のことを学んだ大邱の後輩たちにも、活動する場を与えたい……。朴さんの夢は、どんどん膨らんでゆく。

戸田郁子(作家)

(2016.10.12 民団新聞)
 
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