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サラム賛歌<2>命と向き合う食事作り
華厳寺 マ・ハヨン菩薩

 春の訪れを待つ華厳寺に出かけた。智異山の懐に抱かれた新羅の古刹で韓国10大名刹の一つだ。

 寺の朝は早い。まだ夜も明けきらぬうちから、朝の供養(食事)が始まった。肉、魚、卵は使わず、野菜と海藻のみの精進料理。色とりどりのおかずが10種類ほど。それにご飯とチゲと汁。2泊3日の滞在中に何度もこの食堂を利用した。限られた素材を使い、毎回異なるおかずに驚いた。

 厨房を預かるのはマ・ハヨン菩薩だ。お寺で奉仕する女性を菩薩様と呼ぶ。剃髪はしないが、寺に起居して修行もしている。厨房ではマ菩薩の下で5人の菩薩が忙しく働いていた。

 日に三度、一度に平均100人分を作る。ネギやニンニクは一切使わない。無農薬の素材を厳選し、調味料もほとんど手作り。材料をチェックし、メニューを考え、味付けを決める作業は、なんと大変で責任ある仕事だろうか。

 「ここにはいろんな人が来ます。お寺に来てまだ日が浅くて、不安な人もいます。私は母のような気持ちで、日々の食事を通じて、その人たちが平常心を取り戻してくれるようにと願っています」

 たった2人家族の食べることすら面倒と感じてしまう私には、食事で人の心を動かすと言うその言葉が、深く胸に響いた。

 マ菩薩は山寺に入って、すでに25年と聞く。済州島では3年もの間、修行僧が穴の中に籠って過ごす山寺があって、日に一度だけ、小さな窓から食事を差し入れるという供養も行った。

 「一日に一度だけの食事は、どれほど切実なものでしょう。できる限り心を籠めて料理を作ることを、そこで学びました」

 食べることは生きること。スニム(お坊さん)の切実さに応える食事作りは命と向き合う作業だ。

 マ菩薩の料理は「気」が籠っているから、食べると元気になるとスニムに言われ、乞われて華厳寺にやって来た。作るだけではなく、盛り付けには、箸の先にまで心を籠めると言う。

 マ菩薩はお茶を飲みながら、つかの間リラックスする。韓国では、茶道の文化が仏教と結びついている。お寺には茶畑があって、自ら葉を摘んで煎じるスニムも多い。マ菩薩もお茶が大好きで、韓国茶道もたしなむ。そして「花茶」の魅力にはまった。

 「食事の材料は、すべて自然の中からいただくもの。お茶もそう。でも花茶は、食べものとはまた別の形でやって来るのが楽しくて。例えばビワは果物だけど、ビワの葉は体に良いお茶にもなる。花もお茶として、私たちを楽しませてくれます」

 早朝、咲き始めの梅の蕾を摘んで来て、何度も煎じては冷ますことを繰り返し、梅花茶を作る。花の香りをぎゅっと閉じ込め、お湯を注ぐと甘く芳香して、一同が笑顔になった。

 「紫モクレンは鼻炎に利くのだけれど、最初はどうしても摘めなかった。美しく咲く花を手折るのが申し訳なくて……。今朝、梅の蕾を採る時も、心の中で何度もごめんなさいと繰り返しました。梅の花よ、悪いけれどその香りを、この里だけでなく娑婆の世界の衆生たちにも、春の香りとして届けておくれ、と」

 一服の花茶から、自然の恵みと体の調和を熟考するマ菩薩の心意気が立ち上がってきた。

戸田郁子(作家)

(2016.3.30 民団新聞)
 
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