苦瓜歴は20年程になります。岡山に住む姉が送ってくれたのが最初でした。こんなに苦い野菜があるの? 驚いて実は殆ど捨ててしまったんです。 姉はその後もセッセと送ってきます。あんまり勿体ない! 何とか食べなくちゃとレシピを考えました。その効なして、今や苦味の虜になってプランターで育てるほどです。 今年は節電対策で、ご近所でも苦瓜を植える家がふえています。苦瓜は瓜科なので胡瓜の花とソックリ。緑の葉が風に戦ぐ姿からは沖縄のイメージが強いけれど、14世紀に明国から渡来した蔓茘枝ですね。 Mさん家の苦瓜ってまだ小指ほどで、でも立派にイボイボも揃っていて、一生懸命に蔓を伸ばしぶら下がっている格好がホンマ可愛いい。 立ち止まって覘いていると、Mさんが出てきました。 ここには、東南アジアのとっても辛い唐辛子も植えてあります。Mさんは六十代後半かしら。辛い唐辛子とキムチ、苦瓜を炒めたものが大好物なんですって。 切っ掛けは友人から韓国旅行の土産にキムチを頂き、その味に嵌まってしまったらしいの。それ以来、もっと辛い味が欲しくなったそうです。殿方とのお料理談義も結構面白いものよ。 奥様が窓から声をかけます。苦瓜どうやって食べてるん? そうやね、私のお薦めは苦瓜のチヂミね。青唐辛子や人参や茸などと一緒に焼いてみてよ。キムチと卵と炒め合わせて、胡瓜に萌やしのナムルでビビンパも美味やわ。 奥様が出てきて、チヂミは韮でないとあかんと思ってたけど、苦瓜でもええの? そう言って、辛い唐辛子を幾つか摘んでくれました。 早速その夜にチヂミを作ります。勿論とっても辛ーい唐辛子入りよ。辛ーいスープもついでにね。薬念にも唐辛子の輪切りを。 トリプルな辛味はでも、聞いていたほど辛くはなかったん。加熱すると何故か、全く辛味が抜けてしまい薬念だけがわずかにピリリ。 これは日本人と韓国人の辛味の鍛え方、つまり風土や食文化の差じゃないかしら。韓国人は犬でも辛い物を食べるの? って茨木のり子さんが記していたっけ。多分、日本の犬は未だ味見していないはずね。 数日してMさんに会います。とっても辛ー! 一変に目が覚めるワ。ウン辛ーいやろ? Mさん空を見上げて得意げに笑って。欲しい時はいつでも摘んでってや。またそろそろ姉から今年名残の苦瓜が届くでしょう。そう、もう秋なんだもの。 越えてきし東亜の海に似る空へ縋りつつ実る蔓もつものは 李正子(歌人) (2011.8.31 民団新聞) |