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風はるか−ぐるっと韓国歴史紀行<30>耽羅の聖地、済州島三姓穴
耽羅の建国神話の里・三姓穴

 温暖な気候に恵まれた済州島。美しい自然だけでなく、見どころに富んだ歴史スポットも多い。済州島に着いてまず向かったのは三姓穴‐。済州市の中心に位置する観光地なので、旅をここから始める人は多いに違いない。

 古代から中世にかけて、済州島は耽羅という独立した王国だった。三姓穴はその耽羅の建国神話を伝える場所。高、良(梁)、夫という姓をもつ3人の始祖=3神人が生まれたとされる聖地である。

 風土色豊かなトルハルバンの石像に迎えられて受付に着くと、まずは映写室でビデオを見るように勧められた。ビデオは建国神話を15分にまとめたもので、現代人受けするアニメに、所々神話にからむ済州島の遺跡の実写映像を挟んで構成している。

 三姓穴から生まれ狩猟生活をしていた3神人のもとに、海の彼方から3人の姫が五穀の種や家畜とともに訪れる。それぞれ結婚して農耕を始め、国の基礎を固めたという…。

 私は韓国人客に混じって韓国語版を、日本人客とともに日本語版の両方を見たが、海の彼方から訪れた3人の姫君については、いずれも碧浪国から来たとしている。以前に目を通した『高麗史』では日本からとなっていたので、案内役の男性に尋ねてみた。

 「韓国人から訊かれれば莞島から来たといい、日本人には日本からと答えるんですよ」と、男は鷹揚に笑った。その融通無碍ぶりに感心した。朝鮮本土の儒教的な先鋭さとはひと味違う、島の人のおおらかさを感じたのだ。

 映写室を出て、鬱蒼と茂る林の中を進んだ。梢ごしに降り注ぐ陽光がまばゆい。境内には樹齢500年を超す古木が650本ほど自生する。原生林の趣きだ。やがて緑が本土とは違うことに気がついた。気候が温暖なので、植生が微妙に違うのである。

 林を抜け、朝鮮王朝時代にできた三聖殿をすぎると、周囲を木々に囲まれた芝地の空間が現れた。三姓穴である。塀で遮られ、近づくことができないのは残念だが、窪みははっきりと見てとれる。その底に神人の湧き出たという3つの穴があるのだ。

 穴は途方もない長い歳月の間、風雪に耐えてきた。不思議なことに、周辺の木々の枝葉は穴に向いて伸びるという。また雨や雪がどれほど降ろうと、穴に水が溜まり雪が積もることはないそうだ。

 3神人が穴から生まれたとされるのは、済州島が火山島であることと関係があるだろう。水が溜まらず雪が積もらぬのも、火山活動の末端の自然現象かと思われる。溶岩台地の隙間の穴から、温泉の蒸気でも噴き出るかのように男神は湧き現れたのだ。

 それに対し、女神たちは遥かに海を越えてやって来た。火山と海と‐。済州島をこれ以上端的に語る要素があるだろうか。耽羅の建国神話はこの島のもつ特徴を見事に融合させた果実であった。

 そう考えると、韓国最大の山、漢拏山が無性に見たくなった。そしてまた、黒潮の流れる大海原を眺めたくなった。三姓穴という聖地は、国の始まりを物語る歴史的起点となるだけではない。済州島を旅する起点として、三姓穴はいかにもふさわしい場所なのである。

多胡吉郎(作家)

(2014.6.25 民団新聞)
 

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