掲載日 : [20-09-07] 照会数 : 12276
育鵬社の教科書、大多数の地域・学校で取りやめる
2015年の採択で歴史認識や憲法観などをめぐって賛否の分かれていた「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版の中学歴史・公民教科書を採択した各地の教育委員会が、次々と他社版に切り替えていったことが1日までに分かった。
中学校教科書の採択は原則4年に1度行われる。2021年度から新学習指導要領が実施されるのに伴い、8月末日まで全国で採択が行われた。「子どもと教科書全国ネット21」の調べによれば、歴史、公民のどちらも採択率にして1%前後(暫定数値、各1万冊程度)と前回の6分の1に落ち込む見込みだ。
2015年採択数(採択率)は育鵬社と自由社を合わせて歴史7万5805冊(6・4%)、公民は6万7639冊(5・7%)だった。同ネットの鈴木敏夫代表委員・事務局長は「劇変」と表現した。
名古屋市教育委員会は8月7日、従来通り歴史は教育出版、公民は東京書籍のものを採択。全会一致だった。7月29日の協議で育鵬社版を押していた委員2人も最終的に他の3委員の意見に賛同した。採択の行方を見守っていた民団愛知本部の朴茂安団長は15日、光復節記念式典の会場で参加者に喜びの報告を行った。
大阪市教育委員会は8月25日、前回採択した育鵬社版教科書を採択しなかった。
橋下徹氏が市長だった前回15年は、市全体を一つの採択区にして育鵬社の歴史と公民教科書を採択していた。今回は同市を廃止し、4つの特別区に再編する「大阪都構想」の区割り案に沿って4地区ごとに選定した結果、すべてで育鵬社以外の教科書が答申された。
山本晋次教育長が各地区の答申内容を説明すると5人の教育委員から異論は出ず、歴史は東京書籍や日本文教出版、公民は東京書籍や帝国書院などが採択された。最終的に育鵬社版の不採択が決まると傍聴席から拍手が湧いた。また、中高一貫の中学校2校でも採択しなかった。
大阪府では前回、東大阪市、河内長野市、四条畷市、泉佐野市も育鵬社を採択したが、今回は泉佐野市が公民のみ育鵬社を採択した。
民団大阪本部の呉時宗副団長(文教担当)は、「日本の市民運動の動きが大きかった。民団も市民団体としっかりと連携してやってきた」と述べた。お膝もとの堺市では行政、教育委員会と日ごろから個人的にも信頼関係を築いてきたという。
また、愛媛県では県と各市町で育鵬社版を選んだ教育委員会はなかった。歴史は県と4市町が現在使っている育鵬社版から変更。同じく公民は県と2市町が他社の教科書に切り替えた。
県教委は01年、県立の養護学校とろう学校で「つくる会」が中心となって作った扶桑社版の歴史教科書を採択。02年には中高一貫の県立中等教育学校でも扶桑社版を採択し、以来、歴史、公民とも「つくる会」系の教科書を選んできた経緯がある。
このほか、12年度から9年間にわたって育鵬社版の歴史と公民教科書を採択してきた東京の武蔵村山市でも不採択となった。