

1950年6月25日の韓国戦争(「6・25」)勃発から64年になる。この戦争は3年あまり続き、同胞だけでも数百万人が死亡、国土を荒廃化させたのに加えて南北分断を決定的にし、1000万人にものぼる離散家族の悲劇を生んだ。「6・25」は金日成が武力統一のために、スターリンと毛沢東の承認、援助を受け開始したものだった。このことは、94年から公開された旧ソ連の外交文書など多くの極秘史料によって、誰も否定できなくなった。だが、日本での北韓の忠実な代弁機関である総連中央は、いまだに「米国の指図を受けた南側(李承晩)が引き起こした」と偽り、「北侵説」を喧伝している。ばかりか、金日成の「卓越した指導」によって「祖国解放戦争」に「勝利」したと美化してやまない。
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いまだに「勝利」と喧伝
「金王朝下統一」をうたう
金日成は開戦1年余り前の49年3月、モスクワでのスターリンとの会談で南侵の意思を表明。スターリンは50年1月に計画を承認し、4月に金日成をモスクワに呼んでいる。スターリンの指示で翌5月に北京を訪問した金日成は毛沢東に計画を説明、了解を得た。
ロシアの国際政治学者・歴史家のA・V・トルクノフは、極秘文書(3人の機密電報など)をもとに分析した『朝鮮戦争の謎と真実』(草思社、01年)で、戦争をめぐる北韓・ソ連・中国の関係はスターリンが毛沢東、金日成に対して指令を下す関係にほかならなかったことを明らかにした。
『朝鮮戦争全史』(岩波書店、02年)の著者である和田春樹・東京大学名誉教授も、「ソウル新聞」(10年6月16日付「韓国戦争60周年企画」)のインタビューで「韓国戦争は北韓が明確に武力で統一しようとの目的で南韓に侵入したものだ。北韓の南侵をスターリンと毛沢東が支持した。(略)金日成が3度ほどスターリンに南侵(計画承認)を要請し、結局、スターリンがこれを受け入れ、韓国戦争が起きた」と明言している。
6・25の人的被害についての正確な統計はない。だが、世界規模の大戦ではない個別の戦争において、その大きさ、直接には死者数の多さという点で突出している。岩波小辞典『現代韓国・朝鮮』では「北朝鮮側は250万、中国志願軍は100万、韓国側は150万、米軍は5万の死者を出した」と推算している。死者は南北だけでも400万人になる。当時の南北の人口は合わせて約2800万人で、実に7人に1人が犠牲になった。
この戦争はまた、南北1000万人と言われる離散家族を生んだ。休戦(53年7月27日)から61年になろうとしているのに、これまで再会を果たしたのはごく一部、2万人にすぎない。北韓側の拒否により、自由往来・再結合はもとより故郷訪問や定期的面会、それに書信の交換すらいまだに実施されていない。
金日成は、自らが開始したこの戦争の責任を取らないどころか、美化し自分の神話化に力を注いだ。旧ソ連の崩壊で6・25の真実が判明したにもかかわらず、総連もまた、開戦・戦争責任を韓国および米国側に転嫁、非難する一方で「戦争」を美化するキャンペーンを続けている。
民族学校での刷り込み徹底
総連の朝鮮高級学校で使用されている歴史教科書「現代朝鮮歴史 高級1」も、「米帝のそそのかしのもと、李承晩は50年6月23日から38度線の共和国地域に集中的な砲射撃を加え、6月25日には全面戦争に拡大した」「敬愛する金日成主席様におかれては、(25日の)会議で朝鮮人をみくびり刃向かう米国の奴らに朝鮮人の根性を見せてやらねばならないとおっしゃりながら、共和国警備隊と人民軍部隊に敵の武力侵攻を阻止し即時反撃に移るよう命令をお下しになった」と歴史を完全に歪曲。「3年間の祖国解放戦争は、全朝鮮を占領し、さらにアジアと世界を制覇しようという米帝の侵略計画を破綻させた」などと、北韓政権の政略的主張の生徒への刷り込みに力を注いでいる。
のみならず、総連中央は、いまだに韓国を米軍の占領地域とし、朴槿恵政府を含め韓国の歴代政府を「米帝のかいらい」と呼び続け、北韓独裁世襲政権による「南朝鮮解放統一」への支持を表明している。
しかも、「わが民族=金日成民族」とし、金日成に加えて、「南朝鮮解放統一」を担保するものとして核・ミサイル開発を推進して300万同胞を餓死させた金正日をも「民族の永遠の太陽」と呼びだした。それにとどまらず、3代目の金正恩労働党第一書記を「祖国と民族の運命であり、総連と在日同胞の慈愛に満ちた父」だと機会あるごとに強調し、あたかも総連中央だけでなく在日同胞も「金正恩指導下統一」を支持しているかのように喧伝して恥じない。
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5月の全体大会議長報告でも
許宗萬議長は、5月24・25日に開かれた総連第23回全体大会での報告で「本大会は敬愛する金正恩元帥様を団結の唯一中心、領導の唯一中心にさらに高く戴く忠誠の大会」と規定。金日成・金正日を「民族の永遠の太陽」として高く戴くことを強調。「もう一人の白頭山偉人である敬愛する金正恩元帥様をわが祖国と民族の最高領導者に高く戴く」ことを改めて力説している。
同時に「南朝鮮人民たちの中に絶世の偉人たち(金日成・金正日)の祖国統一思想と方針を広く宣伝し、反統一勢力たちの策動を粉砕し、第2の6・15時代を開くための北と南、海外の連帯・連合運動の先頭に立つ」と誓いを新たにしている。(別掲「5月30日付朝鮮新報」報道の説明参照)
北韓が唱え、総連が支持し、その先頭に立つと誓っている「南北統一」とは「南朝鮮解放統一」であることは明白だ。
北韓が、昨年2月に3回目の核実験を強行した後、休戦協定の全面白紙化、南北間不可侵合意の全面破棄、韓半島非核化共同宣言の全面白紙化声明、「ソウルおよびワシントン火の海化」発言をはじめ、核先制攻撃や全面戦争再開を示唆するなど、対南挑発・恫喝を続けていた時、総連中央は益柱副議長談話「全体在日同胞は正義の統一愛国聖戦に果敢に力強く立ち上がるだろう」(3月22日)を発表。
「南朝鮮の地に非法的に乗り込んでから70年近い歳月、わが民族に戦争と分断の苦痛を負わせ、南地域同胞に残酷な犠牲と死を強要してきた米帝が、今は共和国を丸呑みしようと狂乱して全民族に核惨禍をもたらす戦争の導火線に火を付けようとしている」と強弁。「今こそ全同胞が米国と親米かいらい逆賊たちの侵略戦争策動を断固反対・排撃して米帝侵略軍を南朝鮮から追い出し民族最大の宿願である祖国統一を達成する聖戦に決然と立ち上がる時だ」と、金日成が「6・25」で企図して果たせなかった「南朝鮮解放統一=金日成王朝下統一」への決起を促したことは、まだ記憶に新しい。
北韓・総連は、平和・民主統一推進を明言している朴槿恵政府の関係者の一部の言葉をとらえては「吸収統一の野望を明らかにした」などと激しく非難している。だが、北韓の指示・点検に基づいて発表されている許宗萬議長らの各種報告などを素直に読み解くならば、北韓こそ「吸収統一論」、それも「平和的・民主的」ではなく、3代世襲体制を維持するための「金日成王朝下統一」という、まさに「反動的で最悪な吸収統一論」を終始一貫して唱え、追求している。
南解放・吸収統一論を擁護
ちなみに北韓において憲法よりも上位にある「朝鮮労働党規約」の「序文」は「全国的な範囲で民族解放」「南朝鮮で米帝の侵略武力を追い出し、あらゆる外部勢力の支配と干渉を終わらせる」などと「南朝鮮解放=吸収統一」の推進・実現をうたっている。
総連中央は、そのような「反動的な吸収統一論」を、あたかも在日同胞が支持しているかのように装うことに余念がない。しかし、在日同胞は総連同胞の多くを含め、韓半島の平和確保と南北交流・協力・発展を通じての民主的統一の推進を願っている。
それに逆行する時代錯誤かつ危険きわまりない北韓の核・ミサイル開発と「金日成王朝下統一」推進を支持・擁護する総連中央に対して、総連同胞は、これ以上沈黙することなく、明示的に「ノー」の声をあげることを望みたい。
(2014.6.25 民団新聞)