
韓国の伝統定型詩である「時調」(シジョ)の翻訳・研究に情熱を傾けてきた歌人の瀬尾文子さんはこのほど、愛をテーマにした時調169首を収録した『愛の時調 コリア恋愛詩集』を角川学芸出版から刊行した。金一男さん(「時調会」同人、韓国「時調生活」同人)に、日本で時調の魅力を紹介した第一人者として知られる瀬尾さんのこれまでの試みや、同書に対する思いを寄せてもらった。
<寄稿>「時調会」同人 金一男
伝統詩に一途の半生…169首 古今秀作に広がり託す
瀬尾先生が『時調四四三選』を上梓されたのは1997年、先生が70歳の時のことです。この韓日対訳の「時調」訳詩集は、分量といい内容といい不朽の労作でした。これ以前にも、韓国人、あるいは在日韓国人による「時調」の紹介はあったのですが、いずれも断片的なものでした。
「時調」という韓国伝統定型詩にこれほどの執念を傾けさせたものは、歌人としての瀬尾先生の文学的情熱であったでしょうが、それ以上に隣国である韓国への先生の深い愛着だったのだと思います。解放直前、18歳の瀬尾先生は韓国で小学校の先生をしておられました。
まさに集大成
12年前、私がソウルに渡って勉強しているころ、先生から初めて葉書をいただきました。当時、私が日本にいる友人たちと連絡をとりながら始めた時調・三行詩の運動への励ましのメッセージでした。
時調こそは韓国の魂であり、在日のあなたが最後までその仕事をやりとげてほしい、とおっしゃっていました。孤独な生活の中で受けた、強くあたたかい感動を今でも忘れることができません。
その後、瀬尾先生は2003年に韓国の漢詩の日韓対訳詩集『春恨秋思』を出されました。146編もの韓国の漢詩が紹介されています。
その後の先生のお便りで、新しいお仕事に取り組んでいるとのことでしたが、それが2011年、この『愛の時調』に見事に結実したのです。
84歳というご高齢のうえ、重い病をおしてのお仕事でした。
収録された内容については、「古時調」ではやはり朝鮮時代の黄真伊のものが「愛」の情念において秀逸です。現代時調では、李鎬雨・李永道(兄妹)のものに心がひかれます。ことに李永道の「かげろう」は、与謝野晶子に勝るとも劣らぬ女性の情感を、生き生きと詠いあげています。
瀬尾先生もこの「かげろう」に、「黒髪のみだれ直して身づくろう窓に音なく初春の雪」と反歌で唱和しています。
また、「時調」の源流とされる新羅時代の「郷歌」で、月明法師の「亡妹を祭る歌」が収録されていますが、これは古代歌謡の中の最高傑作と言えるものです。
文学的に見て、亡き妹と自分の魂の行方を見つめて歌う、その奥行きの深さと切実さは、おそらく古今に絶するものと思います。
瀬尾先生のご本を通じて、一人でも多くの人が古今のすぐれた「時調」にふれてくれればと願っています。
価値再認識を
「時調」という45音の伝統定型詩は、韓国の心の歴史をつづったものです。瀬尾先生のその間のご苦労を思うにつけ、在日韓国人社会でいまだ「時調」の価値が十分に知られていないことについては、在日の文学者の一人として努力の不足を痛感しています。
私たちはいまだ激動の時代を生きています。これからも私たちが帰属し、責任を分かち持つ民族社会の民主的な繁栄と平和な未来に向けて、ねばり強く闘い続けなければならないわけですが、それだからこそ、その土台となる伝統文化・伝統文学への理解をおろそかにしてはならないだろうと考えます。
キム・イルラム 全民族時調生活化運動本部理事、季刊『時調生活』第69回新人文化賞当選(06年)、第13会柴川時調文学賞受賞(11年)、MINDAN文化賞「詩歌」部門審査委員、本紙「韓国詩歌春秋」筆者。
■□
瀬尾文子(せお ふみこ)
1927年韓国生まれ。第2次世界大戦後、釜山港から帰国(18歳)。洋画家瀬尾暹と7年余の交際を経て結婚(35歳)。短歌を熊谷武至に師事(35歳)。愛知韓国学園名古屋韓国学校でハングルを学び時調の研究を始める(45歳)。夫、瀬尾暹と死別(49歳)。愛知韓国学園名古屋韓国学校理事の紹介で、古時調を韓国時調学会顧問の沈載完博士に師事。韓国時調文芸賞(功労部門)、韓国時調学会功労碑、駐日韓国大使表彰状(09年1月1日)、日本の短歌誌「水甕」同人ほか。著書に『時調四四三首選』(育英出版社)、『春怨秋思 コリア漢詩鑑賞』(角川学芸出版)など。
(2011.6.8 民団新聞)
| [total : 27747] ( 390 / 793 ) | ||
|---|---|---|
| 番号 | タイトル | 掲載日 |
| 14132 | 第2回模擬投票は30日…在外国民選挙 | 2011-06-08 |
| 14131 | 韓国外語大と学術交流50年…奈良の天理大学 | 2011-06-08 |
| 14130 | <大阪地裁>「医療費支給認めよ」…在韓被爆者3人が提訴 | 2011-06-08 |
| 14129 | 家康の善隣友好外交を誌面特集…静岡商工会議所 | 2011-06-08 |
| 14128 | 訃報 李基淳氏(元民団愛媛本部団長) | 2011-06-08 |
| 14127 | <顕忠日>成功の歴史直視を…李大統領、結束呼びかけ | 2011-06-08 |
| 14126 | 韓日中の「ルート10選」…観光地を共同開発へ | 2011-06-08 |
| 14125 | 光熙門を開放、観光名所に開発へ | 2011-06-08 |
| 14124 | ソウルの主要広場が禁煙区域に | 2011-06-08 |
| 14123 | 人気急増中の「テンプルステイ」 | 2011-06-08 |
| 14122 | 明洞駅の裏手が全国地価1位 | 2011-06-08 |
| 14121 | 初の女性地方気象庁長が誕生 | 2011-06-08 |
| 14120 | ナイジェリアで人気の高麗人参酒 | 2011-06-08 |
| 14119 | 「熟年結婚」が10年間で倍増 | 2011-06-08 |
| 14118 | 高麗航空がクウェート週1往復 | 2011-06-08 |
| 14117 | 韓日8自治体共同で海岸のゴミ清掃 | 2011-06-08 |
| 14116 | 光陽に生産基地移転検討が増加…震災後の日本企業 | 2011-06-08 |
| 14115 | 韓日路線間にエアバス投入…大韓航空 | 2011-06-08 |
| 14114 | 釜山・福岡「友情の航路」結ぶ | 2011-06-08 |
| 14113 | 釜山〜対馬旅客船…17日から再開 | 2011-06-08 |
| 14112 | 韓国の人口密度世界3番目…統計庁調査 | 2011-06-08 |
| 14111 | 米国産牛肉の輸入が3倍増…韓国、第1四半期 | 2011-06-08 |
| 14110 | 韓国への情念見事に結実…瀬尾文子さん「愛の時調」刊行 | 2011-06-08 |
| 14109 | 韓国からは7作品…アジア最大の短編映画祭 | 2011-06-08 |
| 14108 | エスペラント記念講演会…野間秀樹さんら招き | 2011-06-08 |
| 14107 | 映画で語る韓日の深層…東京で歴史シンポ | 2011-06-08 |
| 14106 | <布帳馬車>「建国行進曲」を胸に夢を抱いて | 2011-06-08 |
| 14105 | 花絹<1> 忍者の里と不思議な縁 | 2011-06-08 |
| 14104 | <前半期全国地方団長会議>固めた絆基本事業に | 2011-05-25 |
| 14103 | <李大統領>被災地訪問、激励…同胞代表らとも懇談 | 2011-05-25 |
| 14102 | 故朴炳憲先生しのび民団葬…祖国・同胞愛継承誓う | 2011-05-25 |
| 14101 | <特別講演会>5・17事態から5年…来年の2大選挙へ動向注視を | 2011-05-25 |
| 14100 | 新会長に朴忠弘氏…韓商連定期総会 | 2011-05-25 |
| 14099 | 兪在根常任顧問…震災義捐金3千万円 | 2011-05-25 |
| 14098 | 民団の役割と当面課題学ぶ…第208期中央組織学院 | 2011-05-25 |