掲載日 : [2008-12-11] 照会数 : 3874
<読書>歌に生き、夢に生き 崖っぷち救った音楽への情熱
50歳の時、ウィーンで脳内出血に見舞われた。担ぎ込まれた病院で数日後に意識が戻ったが、顔、腕、足など体の左半分が機能を失っている事実に慄然とした。
声楽家のほかに通訳・翻訳者として生計を立てていたため、ただベッドに横たわっているわけにいかず、言語障害が残っていたが、病室をオフィスにしてイタリアと日本の客との連絡を取り続けた。
医師からは音楽家として再起不能と宣告されたが、絶対に諦めない反骨精神と独自に編み出した声帯を開くベルカント唱法のリハビリを続けることで、奇跡的に声楽家の道を再開した。
56歳の時、今度は脳梗塞で倒れ、頭部切開手術の後、一時的に記憶を失い、失語症に陥った。だが、「常にヒノキを目指し懸命の努力を続けるあすなろ」を自認する著者は、1年半後に舞台に立ち、フランス語、ドイツ語、イタリア語で歌曲などを歌うという離れ業をやってのけた。
大学卒業後、サラリーマン生活を始める前の日に、音楽家の夢を断ち切ることができず、就職を断った。人生に悔いを残したくなかったからだ。頑固一徹の在日1世の父は、息子の哀願にピアノ購入を了承した。その後、フィレンツェ留学を機に、自己実現に向けて大きく舵を切った波乱万丈の半生は、読者に勇気を与えるだろう。
(岡村光玉著、編集工房レイヴン1000円+税)
℡0742(47)7766
(2008.12.10 民団新聞)