掲載日 : [2009-11-18] 照会数 : 4209
<読書>チベットチベット 在日3世は何を感じたか
キム・スンヨン(金昇龍)さんから以前、「いまは在日韓国人であることを明かすのが快感。この気持ちを若い世代に味わってほしい」と聞いたことがある。在日韓国人であることを忌避し「日の丸」にシンパシーを感じていると言ってきた人物の言葉とは思えなかった。その理由は本書を読んではじめてわかった。
著者は97年、自らの内面を縛る民族や国籍から自由になりたいと、子どものころからの憧れだった世界一周放浪の旅に出た。帰日したら日本国籍を取ろう。そう、固く心に決めていたという。
しかし、インドで亡命チベット人と出会い、決心がゆらぐ。彼らが中国政府による圧政にもめげず、命をかけて守り通そうとしているもの。それこそ自らの民族であり国家だった。ショックを受けた著者は、この現実を知ってもらおうと、ビデオカメラを片手にチベット自治区に入る。
在日韓国人3世としての揺らぎを見つめながら、自らの再生を図ろうともがく心の動きが素直に胸を打つ。世界旅行のスタートとなった韓国・釜山で偶然本貫を同じくする同胞と出会い、肉親同様の歓待を受けてからは「在日韓国人も捨てたもんではない」と思うようになったというくだりも楽しい。著名な『何でも見てやろう』(小田実)をほうふつさせる優れたノンフィクション作品だ。
(キム・スンヨン著、河出書房新社1600円+税)
℡03(3404)1201
(2009.11.18 民団新聞)