掲載日 : [2009-11-18] 照会数 : 4230
<読書>波濤の群像 誇り捨てずに今日がある
同じような家庭環境で育ち、心の病に苦しむ在日の金正範と、前向きに生きる宋京香。見合いをきっかけに出会い、幾度もの葛藤を経ながら真実の愛をつかむまでの過程を、2人を見守り続ける家族の姿とともに描く。
京都韓国中学校教師で、韓国舞踊の舞姫として名を馳せる京香25歳、大阪大学で外科医をしている正範は30歳。見合いから1カ月後、本人の意志とは関係なく結婚式は決まる。式当日に遅れてきた正範の拳は震えていた。初夜には京香を避けるように寝てしまい、翌日には姿を消していた。 1年近く甲斐甲斐しく夫の世話をするも話をしない、目も合わせないという正範との奇妙な生活を送った京香。「必要とされていない」とある決断を下す。本能的に自分の相手と気づきながらも、大きくなっていく心のずれ。在日を嫌悪し、心を閉ざす正範。両親の夫婦喧嘩、小学校時代に猛烈ないじめにあったことから吃りになって苦しんだことなど、あまりにも重すぎる環境だった。
切れそうな糸を最後までつなぎ止めた京香。清らかで、大らかな心を育んだ彼女の家族との触れあいで、正範は自分に向き合うようになる。舞台背景となる60年代は在日にとって厳しい時代だった。だが、誇りを捨てずに生きる登場人物の喜怒哀楽を、著者は見事に浮かび上がらせる。
(安福基子著、論創社2500円+税)
℡03(3264)5254
(2009.11.18 民団新聞)